百神~ヒャクカミ~データwiki

追跡!砂漠の粘土人形 ストーリー のバックアップ(No.1)


日中はラー様の働きによって炎天下となるエジプト砂漠。
砂漠を横断するように流れる川が、光を反射しきらきらとまぶしく輝く頃合いに、
ハピ様とネイト様は各々の仕事の手を止め声を掛け合う。

「……そろそろ休憩しよう。この時間、一番日差しが強いからな」
「そうだね。ほとりは静かでいいけど、今日は特に日が照っているように思うよ」
「ラーめ。また他地域の太陽神と張り合っているな?」
「かもしれない。ハトホルが言ってたんだ、ケルトに光の神が戻って来たんだって」

二人は雑談を交わしつつ、場所を変えて休むことにした。
エジプト砂漠にたたずむエジプトピラミッドは、鋭い日差しを避けることには最適な場所だ。
多少暗すぎるところもあるが、それはご愛敬と言ったところだろうか。

「休憩中にカルカデでも淹れよう。セルケトが分けてくれたのでな」
「ありがとう、お願いしようかな」

カルカデの爽やかな味わいを思い浮かべながら、二人はエジプトピラミッドの中へ入って行った。


「あ!ハピにネイト!ちょうどよかったー、一緒にお茶しない?」

エジプトピラミッドに入るなり、ハピ様とネイト様に声をかけてきたのは包みを抱えたハトホル様だ。
多少遅れて、モンチュ様も二人に駆け寄る。

「お仕事お疲れ様ねっ!休憩しに来たんでしょ?ハトホルとお菓子持ち寄って女子会しようって言ってたのよ~」
「そーそー!おいしそうでしょ?皆で食べようよー」

ハトホル様が手に持つ包みを軽く開き、中身を見せる。
エイシとザクロの鮮やかなコントラストが目に入った。

「エイシとザクロ……イシスとネフティスあたりから分けてもらったか」
「よくわかるわね~、さすがネイトってところかしら!」
「エイシは焼き立てなんだって!早く食べないともったいないって話!」
「確かにこれはおいしそうだね。僕らもカルカデを飲んで休憩しようって話してたんだ」
「量は十分にあるからハトホルとモンチュにも淹れられる。少し待っていてくれないか、用意してくる」
「カルカデ!わーっ、ありがとー!ネイトって女子力高いなー、アタシもカルカデ好き!」

4人はそれぞれの味についての好みの話や、何が食べたいなどといった願望の話をしつつ準備を進めていく。
予定よりも規模が大きくなったがために多少机が狭く感じたが、このメンバーにとっては些細な問題であった。
もっとも、このすぐ後にさらに大きな問題が起きるわけなのだが。

「あら?この子ったらどこから来たのかしら~!」

気づけば、小さな粘土像が机の上にちょこんと居座っている。
モンチュ様が声をかけると、粘土像はそのまま机を飛び降り、素早くその場から去ってしまった。

「粘土像……クヌムか?」

ネイト様は粘土像の心当たりをつぶやく。
そしてその読みは当たっているのであった。


ハトホル様やハピ様らがお茶をする少し前に時間はさかのぼる。

エジプトピラミッド内の一室に工房を構えるクヌム様は、普段通り粘土にて塑像の造形に励んでいた。
クヌム様は羊の頭を持つ創造神であり、特に粘土で像を作る技術に長けている芸術家のような一面を持った神である。
本人自身はいたってマイペースかつ天然であるため、創造神らしい厳かな雰囲気などは持ち合わせないものの、
それゆえに親しみやすく他の神との交流も少なくはない。

「ふわぁ……眠くなってきちゃったなぁ」

前述のとおりクヌム様の創造活動はマイペースそのもので、
気が向いたときに製作をし、眠気を感じたら作業を中断して寝る……といった具合にかなり気ままだ。
今回の製作もその例に漏れず、自分のペースで無理なく作業をしている様子。

「うーん……寝よう……」

うとうとと舟を漕ぎ出したクヌム様は、適当な場所に体を横たえそのまま眠ってしまった。
この光景はよく見られることなのだが――。

「クヌム!ちょっと、早く起きなさいよ!」
「……あ、ヘケト。どうしたの?」

クヌム様が重い瞼を擦り目を開けると、眉間にしわを寄せたヘケト様がたたずんでいた。
ヘケト様は生命を司るカエルの神であり、クヌム様の作った粘土像に命を吹き込むことを仕事としているため、
クヌム様とは仕事仲間……と言った関係である。

「どうしたの?じゃなくって、粘土像は?!どこにやっちゃったのよ」
「粘土像?さっきまでそこに……あれ?ない」

クヌム様が神具のろくろの上に乗せ、製作していた粘土像を見遣る。
だが、ろくろの上にあるはずの、先ほどまで製作していた粘土像は見当たらない。

「おかしいなぁ。……歩いて逃げてっちゃったかな?あはは。まぁ、そのうち戻ってくるんじゃない?」
「適当なこと言わないでよ!あれはあなたが手を加えてる粘土なの。その辺にあるものとは訳が違うんだから!」

ヘケト様の言う通り、クヌム様が力を込め練った粘土には少なからず神の力が宿る。
その力は些細なものかもしれないが、神の力であることには間違いない。
クヌム様が目を離した隙に勝手に粘土像が動き始め、暴走し、逃亡してしまうことは過去にもよくあることであった。
そして、暴走しないよう粘土に宿った神の力を調節するのもヘケト様の仕事の一つなのである。
今回姿を消した像は今までに比べかなりの量があったため、
その塊の分だけ神の力が勝手に動き回っているということを意味する。
ヘケト様は、その粘土像を魔神が手に入れ、悪用してしまう可能性を危惧しているのだった。

「塊とは言え粘土だから、すぐにぼろぼろになっちゃうんじゃない?」
「余計にたちが悪いわ!集めなくちゃいけないじゃない」
「焦らなくっても大丈夫だって。呼んだら戻ってくるよ、たぶん」
「戻ってきた試しがないから焦ってるのよ!こうしちゃいられないわ」

ヘケト様は悠長に構えるクヌム様を後にし、逃げ去ったであろう粘土像を探しにその場を去る。
そして入れ替わるように、先ほど机の上で粘土像を見つけた4人……
ネイト様、モンチュ様、ハトホル様、ハピ様がクヌム様を訪れる。

「あれ、皆。集まってどうかしたの?」
「クヌム、また粘土像が脱走していたみたいだけど……あれ、ヘケトは?」
「ヘケトは脱走した粘土像を探しに出かけちゃった。俺も行こうかなって思ってたところ」
「入れ替わりだったのかー、残念!せっかく差し入れにエイシ持ってきたのになー」
「じゃあここに置いておかせてもらいましょうよ!粘土像探しならアタシ達も協力するわ!」
「え、いいの?」
「早く片付けられるならその方がいいわよ~!どうせアタシもハトホルも暇だったし!」
「だよねー!あ、ハピとネイトはどうする?仕事残ってるなら無理することもないと思うんだけど」
「私としては、こちらの方が緊急性が高いように思えるな」
「そこまでかなぁ……でも確かに、ヘケトも走って行っちゃったくらいだし……」
「この際やむを得ない。川の管理は専門外ではあるだろうがゲブやラーにでも頼んでおくとしよう」
「そうだね……休憩はいる前は問題なかったとはいえ、目を離すわけにはいかない」

集まったメンバーを中心に、他にも協力を仰げそうな神を探しつつ、
神の力が宿った粘土の捜索を始めることとなった。
エジプト地域の日はまだ高い。