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追跡!砂漠の粘土人形 ストーリー

Last-modified: 2018-07-21 (土) 19:29:44

エジプト砂漠1.jpg

日中はラー様の働きによって炎天下となるエジプト砂漠。
砂漠を横断するように流れる川が、光を反射しきらきらとまぶしく輝く頃合いに、
ハピ様とネイト様は各々の仕事の手を止め声を掛け合う。

「……そろそろ休憩しよう。この時間、一番日差しが強いからな」
「そうだね。ほとりは静かでいいけど、今日は特に日が照っているように思うよ」
「ラーめ。また他地域の太陽神と張り合っているな?」
「かもしれない。ハトホルが言ってたんだ、ケルトに光の神が戻って来たんだって」

二人は雑談を交わしつつ、場所を変えて休むことにした。
エジプト砂漠にたたずむエジプトピラミッドは、鋭い日差しを避けることには最適な場所だ。
多少暗すぎるところもあるが、それはご愛敬と言ったところだろうか。

「休憩中にカルカデでも淹れよう。セルケトが分けてくれたのでな」
「ありがとう、お願いしようかな」

カルカデの爽やかな味わいを思い浮かべながら、二人はエジプトピラミッドの中へ入って行った。


「あ!ハピにネイト!ちょうどよかったー、一緒にお茶しない?」

エジプトピラミッドに入るなり、ハピ様とネイト様に声をかけてきたのは包みを抱えたハトホル様だ。
多少遅れて、モンチュ様も二人に駆け寄る。

「お仕事お疲れ様ねっ!休憩しに来たんでしょ?ハトホルとお菓子持ち寄って女子会しようって言ってたのよ~」
「そーそー!おいしそうでしょ?皆で食べようよー」

ハトホル様が手に持つ包みを軽く開き、中身を見せる。
エイシとザクロの鮮やかなコントラストが目に入った。

「エイシとザクロ……イシスとネフティスあたりから分けてもらったか」
「よくわかるわね~、さすがネイトってところかしら!」
「エイシは焼き立てなんだって!早く食べないともったいないって話!」
「確かにこれはおいしそうだね。僕らもカルカデを飲んで休憩しようって話してたんだ」
「量は十分にあるからハトホルとモンチュにも淹れられる。少し待っていてくれないか、用意してくる」
「カルカデ!わーっ、ありがとー!ネイトって女子力高いなー、アタシもカルカデ好き!」

4人はそれぞれの味についての好みの話や、何が食べたいなどといった願望の話をしつつ準備を進めていく。
予定よりも規模が大きくなったがために多少机が狭く感じたが、このメンバーにとっては些細な問題であった。
もっとも、このすぐ後にさらに大きな問題が起きるわけなのだが。

「あら?この子ったらどこから来たのかしら~!」

気づけば、小さな粘土像が机の上にちょこんと居座っている。
モンチュ様が声をかけると、粘土像はそのまま机を飛び降り、素早くその場から去ってしまった。

「粘土像……クヌムか?」

ネイト様は粘土像の心当たりをつぶやく。
そしてその読みは当たっているのであった。


ハトホル様やハピ様らがお茶をする少し前に時間はさかのぼる。

エジプトピラミッド内の一室に工房を構えるクヌム様は、普段通り粘土にて塑像の造形に励んでいた。
クヌム様は羊の頭を持つ創造神であり、特に粘土で像を作る技術に長けている芸術家のような一面を持った神である。
本人自身はいたってマイペースかつ天然であるため、創造神らしい厳かな雰囲気などは持ち合わせないものの、
それゆえに親しみやすく他の神との交流も少なくはない。

「ふわぁ……眠くなってきちゃったなぁ」

前述のとおりクヌム様の創造活動はマイペースそのもので、
気が向いたときに製作をし、眠気を感じたら作業を中断して寝る……といった具合にかなり気ままだ。
今回の製作もその例に漏れず、自分のペースで無理なく作業をしている様子。

「うーん……寝よう……」

うとうとと舟を漕ぎ出したクヌム様は、適当な場所に体を横たえそのまま眠ってしまった。
この光景はよく見られることなのだが――。

「クヌム!ちょっと、早く起きなさいよ!」
「……あ、ヘケト。どうしたの?」

クヌム様が重い瞼を擦り目を開けると、眉間にしわを寄せたヘケト様がたたずんでいた。
ヘケト様は生命を司るカエルの神であり、クヌム様の作った粘土像に命を吹き込むことを仕事としているため、
クヌム様とは仕事仲間……と言った関係である。

「どうしたの?じゃなくって、粘土像は?!どこにやっちゃったのよ」
「粘土像?さっきまでそこに……あれ?ない」

クヌム様が神具のろくろの上に乗せ、製作していた粘土像を見遣る。
だが、ろくろの上にあるはずの、先ほどまで製作していた粘土像は見当たらない。

「おかしいなぁ。……歩いて逃げてっちゃったかな?あはは。まぁ、そのうち戻ってくるんじゃない?」
「適当なこと言わないでよ!あれはあなたが手を加えてる粘土なの。その辺にあるものとは訳が違うんだから!」

ヘケト様の言う通り、クヌム様が力を込め練った粘土には少なからず神の力が宿る。
その力は些細なものかもしれないが、神の力であることには間違いない。
クヌム様が目を離した隙に勝手に粘土像が動き始め、暴走し、逃亡してしまうことは過去にもよくあることであった。
そして、暴走しないよう粘土に宿った神の力を調節するのもヘケト様の仕事の一つなのである。
今回姿を消した像は今までに比べかなりの量があったため、
その塊の分だけ神の力が勝手に動き回っているということを意味する。
ヘケト様は、その粘土像を魔神が手に入れ、悪用してしまう可能性を危惧しているのだった。

「塊とは言え粘土だから、すぐにぼろぼろになっちゃうんじゃない?」
「余計にたちが悪いわ!集めなくちゃいけないじゃない」
「焦らなくっても大丈夫だって。呼んだら戻ってくるよ、たぶん」
「戻ってきた試しがないから焦ってるのよ!こうしちゃいられないわ」

ヘケト様は悠長に構えるクヌム様を後にし、逃げ去ったであろう粘土像を探しにその場を去る。
そして入れ替わるように、先ほど机の上で粘土像を見つけた4人……
ネイト様、モンチュ様、ハトホル様、ハピ様がクヌム様を訪れる。

「あれ、皆。集まってどうかしたの?」
「クヌム、また粘土像が脱走していたみたいだけど……あれ、ヘケトは?」
「ヘケトは脱走した粘土像を探しに出かけちゃった。俺も行こうかなって思ってたところ」
「入れ替わりだったのかー、残念!せっかく差し入れにエイシ持ってきたのになー」
「じゃあここに置いておかせてもらいましょうよ!粘土像探しならアタシ達も協力するわ!」
「え、いいの?」
「早く片付けられるならその方がいいわよ~!どうせアタシもハトホルも暇だったし!」
「だよねー!あ、ハピとネイトはどうする?仕事残ってるなら無理することもないと思うんだけど」
「私としては、こちらの方が緊急性が高いように思えるな」
「そこまでかなぁ……でも確かに、ヘケトも走って行っちゃったくらいだし……」
「この際やむを得ない。川の管理は専門外ではあるだろうがゲブやラーにでも頼んでおくとしよう」
「そうだね……休憩はいる前は問題なかったとはいえ、目を離すわけにはいかない」

集まったメンバーを中心に、他にも協力を仰げそうな神を探しつつ、
神の力が宿った粘土の捜索を始めることとなった。
エジプト地域の日はまだ高い。


エジプトピラミッド3.jpg

エジプトピラミッド最深部。
ここは完全に日の光を遮断し、闇が支配する空間だ。
砂漠のど真ん中に建っているとは思えない、不気味な瘴気と冷気が漂う。

「暗いと眠くなっちゃうなぁ」

当事者であるにもかかわらず呑気な発言をするのはクヌム様だ。

「クヌム!あなたが粘土像を逃がしちゃうからみんなで探してるんでしょ。もっとしっかりして!」
「ごめんごめん。つい……あ」
「今度は何?」
「ほら。粘土だよ」

呑気なクヌム様に喝を入れるヘケト様。
暗闇の中で揺れる足元の炎に照らされ、クヌム様の影が伸びる。
そしてその伸ばした指の先には、彼の粘土像が隅でうずくまっていた。
確保するべく、ハトホル様とヘケト様が粘土に駆け寄る。

「よーし、捕まえた!やったー!」
「捕まえられてよかった!この子随分おとなしいわね」
「うーん。疲れちゃったんじゃない?」

二人はおとなしい粘土像をクヌム様に引き渡し、クヌム様は大事そうにそれを抱える。

「いい子いい子。他の粘土達も待ってるよ」
「クヌムが話しかけていると、何となく粘土像も嬉しそうに見えるね」
「まるで赤ちゃんね~!クヌムのこと、お父さんかお母さんだと思ってるのかもしれないわ~!」
「まぁ…クヌムは男だけどね」
「フフ…本当にあの粘土像、生きているみたいだわ」
クヌム様が粘土像をあやす様子を見て、ハピ様とモンチュ様、アヌビス様が感心する。

「ウジャトとネイトと…ホルスとセトは少し先に行ってるんだっけ?」
「そうだったはず…魔神を探しに行ったんじゃないかしら」
「ホルス君強いし、一緒に行った神様が強いから心配はしてないんだけど気にはなるよね」
「そうだね…さっきの魔神セトを見ると余計に」

セト様は魔神セトを探し、見つけ次第討伐にあたっている。
しかし、セト様は既に魔神との戦いを繰り返しているため負傷も見られた。
だからこそ、ウジャト様、ネイト様、そしてホルス様がセト様と行動している。
もっとも、ウジャト様はより戦える環境に身を置きたいとのことからであり、
セト様の補佐をする…というつもりはないらしいのだが。

「アタシ達も、粘土集めにある程度目途が立ったら早く合流したほうがいいかもしれないわ」
「確かにね~!アタシのハルペーちゃんも戦いたいって言ってるもの」
「モンチュもセト達と一緒に魔神の討伐に行ってもよかったのに」
「それでも良かったけど、やっぱりこのメンバーを放っては置けないわ~、可愛くて大事な子達だもの!」
モンチュ様は見つけた粘土像をぎゅっと抱きしめる。
だが、かけたモンチュ様の力は強く、粘土像は歪な形に変形してしまったようだ。

「それは力をかけ過ぎよ。包帯を巻きにくい形になってしまったわ」
「あらやだアタシったら!うっかり力をかけすぎちゃったわ!」
「モンチュの抱き枕には向いてない硬さだね。もうちょっと固い方がいいのかも」
「粘土の抱き枕……?聞いたことないけど気持ちよさそう!アタシも欲しいなー!」
「抱きしめるとひんやりして、柔らかくて……とりあえず気持ちいいんだよ。昼寝にぴったり」
「クヌムは粘土と寝ることと食べることしか考えてないのかしら……!」

エジプトピラミッド最深部を歩くことで、やはり粘土像の姿を多く見かけるようになった。
漂う不気味な瘴気や冷気は神の力や魔の力が混ざり、出来上がったものなのかもしれない。

「ねぇ、ちょっと集めた粘土の所に戻ってもいい?」
「クヌム…何を言い出すかと思えば。サボるつもりじゃないわよね!?」
「ううん。そういうわけじゃないけど……あ、じゃあヘケト。一緒に来てくれる?」
「えっ、なんでよ!粘土像をもう少し探さないと……」
「いいこと思いついたんだよ。簡単な方法があるかもしれないんだ」

クヌム様は笑顔だ。何やら確信があるらしい。

「いいじゃん!ヘケト、クヌムと一緒に行ってきなよ!」
「そうよ~!これってデートのお誘いかもしれないわよ?」
「このタイミングでデートってことはないと思うけど……まぁクヌムだしね」
「私達は問題ないわ。気にせず行ってらっしゃい」

ハトホル様、モンチュ様、ハピ様、アヌビス様は、クヌム様とヘケト様が抜けても問題なさそうだ。
むしろ、ハトホル様とモンチュ様は勧めているようにも見える。

「じゃあお言葉に甘えて。また後でね」
「ちょ、ちょっとクヌム……!もう」

顔を赤らめるヘケト様をよそに、クヌム様は笑顔で手を振り、入口付近の粘土置き場へ戻る。
振っている方とは逆の手には、しっかりとヘケト様の手が握られていた。


一方、エジプトピラミッド奥へと進んだウジャト様、ネイト様、ホルス様、セト様。
やはり入り口付近に比べモンスターの数や、現れる魔神の数が多い。
そして、途中にいくつかやはり身に覚えのない罠が仕掛けられているようだ。

「ったくよぉ……こんな面倒なもの設置しやがって、どこのどいつだ?!」
「それが分かれば苦労はしないが。この単純な構造からして魔神だろうか」
「魔神が罠を設置だなんて聞いたことがないぞ」
「魔神と一口に言っても、その能力は様々だ。私達と同じように思考し、言葉を交わせる知性を持った魔神も存在するのだからな……あり得なくもない」
「……なるほどな」

ホルス様の脳裏に浮かんだのは、以前空間に裂け目を作り、
様々な悪事を働いたクレプシード家の存在だった。
彼らは神々と言葉を交わし、共闘をしたこともあった……らしいと、
ホルス様はエジプト地域の神々から話を聞いていた。
確かに罠を設置する魔神が存在してもおかしくはないだろう。

「……セト。お前は罠を仕掛けない、と言っていたな」
「フン……同じ質問を二度するか?」
「その答えはいい。ただ……魔神のセトは罠を仕掛ける可能性もあるのではと思ってな」
「さて、どうだろうな」
「ネイト、ホルスお坊ちゃま。それにウジャト、セト。やっと追いついたわ」

暗闇の中から神々の一向に声をかけるのはセルケト様だ。
セルケト様は罠の調査のため一旦単独で調査をしていた。
彼女の接近は履いているハイヒールの音で近づいてくることはすぐに分かる……が、今回ばかりは音も気配もなかった。
「セルケト!?いつの間に……!」
「気配を消していたのよ。暗闇で呑気に足音鳴らすなんて自殺行為、一人じゃさすがにしないわ」
「サソリの神だけあるな」

セルケト様は得意気な様子で話を続ける。
セト様は興味がないと言わんばかりにその場を離れようとするものの、ネイト様が引き止める。
「やっぱり、あのおぼえのない罠……魔神が仕掛けたもので間違いなさそうだわ」
「魔神が……!?今ちょうどその罠について話をしていたんだ。詳しく聞かせてくれ」
「そうね……とりあえず、設置されているものからは魔神の持つ魔の力を微力ながら感じたことかしら」
「は?!魔神どもに罠なんてだりぃモン仕掛けてるヒマあんのかよ」
「さぁね……けど、神が仕掛けたのであればそこにあるのは魔の力ではなく神の力のはずだもの」

この判別法はクヌム様の粘土に宿っている神の力を追い、探している方法と近い。
セルケト様はその方法で、罠を仕掛けた犯人が魔神であることを述べる。

「微力か……だからパッと見ただけでは判断できなかったんだな」
「そういうことね。それと……」
「まだ何かあるのか?」
「少し妙なの。憶測になるのだけど……あの罠は解除されるための物だったのかも」
「解除されるため……?どういうことだ」
「解除されるための罠には基本三種類あるわ。単なる時間稼ぎ、他の罠を隠すためのブラフ、それと解除することで、別の罠が作動するタイプってところかしら」
「それで、今までの罠はそのうちのどれにあたる?」
「解除してそれっきりだったから単なる時間稼ぎってところかしら」

セルケト様の調査の結果、罠の構造が単純であるくせに、解除に使う時間が割に合わないとのこと。
罠の解除をしながら進んだ際に明白であったが、確かに解除になれるまでは時間がかかっていた。
そして、解除をした人数は、通路状のエジプトピラミッドを歩くうえで少々人数が多いくらいであり、 これが二、三人での解除となればさらに時間がかかるであろうことは明白だ。

「魔神がオレらの時間稼ぎして何の得になるんだよ?意味わかんねー!回りくどいことしやがって、堂々正面からきやがれ」
「魔神が神を足止めして得になることと言えば……何かの準備、もしくは先回りか?」
「あたしは先回りに一票ね。魔神が先回りしてまで手に入れたいものがここにあるでしょう」
「粘土像か。しかし、粘土像が散らばってから時間はさほど経っていないが、結構な数が仕掛けられていたな」
「フン……聞いていれば退屈な詮索をしているようだな。お前達は毎日のようにピラミッドの奥まで行く用事があるのか?」

セト様の意見のとおり、神々がピラミッドの奥まで出向く頻度は高くない。
事件が起き、罠が仕掛けられていると発覚するよりも前に、仕掛けられ始めていた可能性は大いにある。

「つまり……魔神はクヌムが粘土像を散らしてしまうことを予測していたと言う事か」
「確かにクヌムが粘土像を逃がすことは少なくなかったものね」
「なんにせよ、随分と頭のいい魔神だな」

セルケト様とネイト様の話す横で、ウジャト様とセト様は廊下の先に広がる暗がりに体を向ける。
気配を伺いつつ、そのまま二人はその暗闇へと向かった。

「! 二人とも走って行ってしまったわね」
「魔神だな。この気配……1体ではなさそうだ」
「フフ、上等よ。行きましょう」

ネイト様、セルケト様もその後に続く。


永遠の楽園アアル.jpg

ところで、アアルの様子だが。

「舟を即興で作ったにしてはいい出来なんじゃないか」
「ありがとうございます。職人として頑張りましたよ……」

ソカル様とプタハ様は完成した一隻の舟を完成させていた。
もちろん、二人だけではなく、この場に居る神々……
ネムティ様、イシス様、ネフティス様、メジェド様、そしてオシリス様で力を合わせ、何とかこの短時間で完成させたのだった。

「オシリス様、何とか舟はできても全員乗るには小さいっすね」
「小さくて構わん。こちら側に一つも舟がないことが問題だからな」
「いざという時に対岸に渡れませんからね……でもこの舟ならわたしも安全に渡すことを約束できます!」
「頼もしいですわ。わたくしは今のところ、対岸に渡る理由はありませんけれど……」
「プタハやネムティ、ソカルにはそういう理由がデキちゃうかもしれないものね」

転覆した舟は既にいくつか引き上げ済みだが、水に加え砂も乗ってしまっているため、
元通り舟として機能させるには時間がかかりそうだ。

「資材もまだ余裕がありますし、もう一隻作りましょうか」
「そうだな。プタハ、頼めるか」
「はい。オシリスもその方が安心でしょうしね」

プタハ様は再び作業に取り掛かる。
その様子を眺めるプタハ様とメジェド様。

「……プタハさんって、鍛冶神っすよね?」
「そのはずだけど」
「自分、鍛冶神について詳しくないんすけど、鍛冶神って……」
「……」


エジプトピラミッド1.jpg

エジプトピラミッドの入り口付近。
クヌム様とヘケト様がゲブ様らの居る粘土を管理する部屋に訪れる頃合いに、
未来の神々が見つけた粘土像をまとめ、ゲブ様らのいる部屋にひとりでに歩いて行けるよう調整しているようだ。

「これで大体の粘土像は調整できましたね」
「トトちゃん、大丈夫?さっきから働きっぱなしじゃない?」
「ありがとう、大丈夫です。このくらいなら大したことはありませんよ」

集めた粘土像の調整が大方済んだ所で、未来の神々……トト様、マアト様、セクメト様、バステト様は考察をはじめる。

「トトちゃん……あたし気になるの。こんな事件、昔あったっけ?って」
「それは……私も気になっていました。普通であれば、私達も経験しているはずです」
「それに結構大きな事件なんだよな?皆して忘れてるってことはないと思うんだけどな」
「オイラも知らないニャ。クヌムは確かにいつも粘土を逃がして、そのたびにヘケトが追いかけてたけど、今のは規模が違うニャ」
「そうですよね。私達はこの事件、経験していないみたいです」
「トト、そんなことってあるのか?普通ないよな」
「ないでしょうね。……何かが時空に影響しているのかもしれません。私が粘土像の調整がある程度できるということは、ぶれていないようですが」
「そのきっかけがぶれたってことニャ?ややこしいニャ~」
時空の乱れが事件の原因となることは多いが、
粘土像が逃げ出す事件もまた時空の乱れにより引き起こされた事件である可能性が浮上しつつあるようだ。
時空の乱れがこの事件にどう関わってきたのかは情報が少なくまだわからない。

未来の神々が考察しているうちに、クヌム様はあるものを完成させていた。それは……

「できたー!見てヘケト!会心の出来だよ」
「ふーん…見事だね。あの短時間でここまで作るなんて」
「ありがとう!すでにある程度形を作ってあったからね」
「それにしても完成が早い。集中していたと言う事かな」
「素晴らしい出来です。像の完成日時を記録しておきますね(カキカキ)」
「本当ねー!ヘケトちゃんにそっくりでとってもかわいい像だわ!」

クヌム様が作っていたのはヘケト様の粘土像だ。
ある程度あたりを取っていたとはいえ、粘土像の完成に要する時間はあまりにも短く、神々が驚くのも無理はない。
しかし決して手を抜いた様子はなく、存在感のあるいまにも動き出しそうな像がそこにはあった。

「この非常事態に何を作っているんだか……アタシを作ってもどうしようもないでしょ!」
「そうかなぁ。言いつつ調整してくれたのはヘケトだよ」
「同じ間違いを二度しないようによ」
「あとね。俺さ、さっき言われてちょっと思ったんだ。粘土像のお母さんが必要かなって……」
「何言ってんのよ?!」
「ヘケト、ちょっと見てて」
「えっ?」

クヌム様が粘土像に手を差し伸べると、粘土像はそっと動き出す。
等身大のヘケト様像はゆっくりと立ち上がり、クヌム様の脇に立った。

「すっごーい!さすがクヌムの粘土像ね!本当に動くなんて!」
「いいなぁ。今度ヌトの像も作ってもらおうかな」
「ちょっとクヌム……!それ動かしてどうするのよ?!」
「粘土のヘケトにも残った粘土を探してもらうんだ。たぶん俺らより探すのはうまいんじゃないかな」

自信満々に述べるクヌム様と、動く粘土像に釘付けのゲブ様、ヌト様、シュー様、トト様。
その様子を見てあきれ顔のヘケト様。

「確かに、粘土像に粘土像を探させるのは悪くなさそうだ」
「神よりも粘土像同士の方が存在が近いですしね。良い考えかもしれません」
「でも単独で動かすと魔神に連れ去らわれるかも。一緒に行動したほうがいいと思う」
「もちろん、そのつもりだよ。頼りにしてるね」

粘土像のヘケト様は言葉こそ交わさないが、表情と態度はヘケト様そのものだ。
ヘケト様自身、クヌム様の力をよく知っているため粘土を捜索させるのにちょうど良いモデルだろう。

「それじゃあ、もうちょっとがんばろっか。ヘケト、皆に合流しに行こう」
「うぅ…わかったわよ。行けばいいんでしょ」

案の定、ヘケト様の顔は真っ赤だ。
ヘケト様はわざと誰にも表情を見せないよう、うつむきつつ歩きはじめる。

「ふふ、二人とも仲良しね!私達もあんな感じだったかしら」
「クヌムとヘケトは付き合ってないんでしょ?」
「あっ、そういえばそうだった!」

ゲブ様とヌト様含む神々は過去の自分らを思い出しつつ、クヌム様とヘケト様、粘土像がずんずん奥へ進んで行く姿を見送る。
残りの粘土像の捜索、そして魔神の討伐はまだ終わっていない。
エジプト地域の神々は各々の考えをもとに、最善の手でこの問題に立ち向かう。