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アーシラトと沈みゆく砂漠 ストーリー

Last-modified: 2018-07-21 (土) 19:18:15

バビロニアの魔塔01.jpg

※○○にはユーザー名が入ります。

天に高くそびえるバビロニアの魔塔。
○○とバビロニアの神様たちはその見事な景色を眺めていた。

「バビロニアの魔塔は本当に高いですね~!ここでもこんなに地面が離れているのに、まだ上に登れるんですね」

ナビィは空を飛ぶことはできるが、この高さまで飛ぶのはさすがに怖いとつぶやく。

「そうだねぇ。もっと高い所にはアヌ様が使っている部屋なんかもあるんだ」
「そこまで自分の足で登ろうって思う神様はいないと思うけどね」

イシュタル様、ティアマト様もそれぞれ魔塔の外の景色を眺めている。
白い雲がふわふわと近くを漂うほどの高さのある一室から外を眺めると地面が遥か下に見える。
一歩でも足を踏み外したら……と考えればぞっとするが、青い空と青い海が境界なく交じり合うさまは、まさしく絶景だ。

「あの海にはヤム様が住んでいるんですよね!」
「そうそう、ヤムとレヴィアタンはあの海からここまでやってくるんだよ」

何もかもが小さく見えるこの場所ですら、青々とした海の広大さが伝わってくる。
海の神とは、この広大な領域を統べる力を持った偉大な神なのだと改めて実感した。
しかし、ここでティアマト様が何かに気が付く。

「あら…?何だか様子が変じゃない?」
「えっ?どうかしましたか~?」
「ほら、なんだか…海が拡がってきているような」


実はティアマト様が異変に気付くその何時間か前に、すでに異変に気付いて行動を起こしていた神がいた。
バビロニア地域の天界と海沿いをよく行き来し、のんびりと生活をしていた神・アーシラト様とダゴン様である。
加えて、その時同じ場にいたヤム様、ヤム様がいつも連れている竜であるレヴィアタンも同じく異変に気が付いていた。

「なんだか、今日は海が騒々しいね」

ダゴン様は穏やかに海を観察する。何かが普段と違う。

「魔神でも現れたのでしょうか?でも、もっとおかしな気配を感じるような」

レヴィアタンも海を眺め、背びれを揺らして辺りを観察している様子だ。
しかし、この場の神々はまだ情報が少ないこともあり、何が違和感を感じさせるかまでは気づくことはできないでいるようだ。

「魔神の仕業なら怖いわ……。まだ何が起きているかわからないもの」
「そうだね。……」

ダゴン様はふむ、と何か考えるように顎に手を添える。

「やっぱり、知ることって大事じゃないかな。僕少し様子を見に行ってみるよ」

そういうなり、ダゴン様はすっと立ち上がり、迷いなく海へと向かっていく。

「それなら、僕はほかの神たちに応援を呼んできます。きっとギルガメッシュやバアルなら魔塔にいるかと思いますしね」

同じく、ヤム様もその場を離れるべく、魔塔のある方角へ体を向ける。レヴィアタンもまた、ヤムに付き添うつもりなのか同じ方向を向く。

「ふ、二人ともここを離れてしまうの? 危ないわ……!私はここでもう少し、様子を見ていたほうが……」
「それなら、アーシラトはそこで待っていて。すぐに戻るから」
「はい。僕とレヴィアタンも応援を呼び次第すぐに戻ります」

ダゴン様もヤム様、レヴィアタンもその場を去り、ただ一人取り残されたのはアーシラト様。

「……本当に、すぐに戻ってきてくれるのかしら」

アーシラト様は不安そうな面持ちのまま、二人の行く先を見守った。


ダゴン様、ヤム様が動き始めた辺りで、アヌ様やエンキ様、アプス様、そしてバアル様もそれぞれ動き始めていた。

「バビロニアの海で、多少なりとも空間のゆがみを感じてね。近くにいたダゴンやアーシラト、ヤムが気づいたみたいだ」
「空間のゆがみ、ですか?」
「そう、バビロニアの海で直接何かがあったわけではないみたいだけど……」
「間接的にバビロニアの海に影響を与えているということか」

その何かが何であるのかはまだアヌ様の管轄している領域に現れていないのか、アヌ様も把握できていないようだ。

「ふーん……アプス、どうしようか。たぶん魔塔にはちょうど○○も来ているし、伝えておいてもいいかもね」
「はい、それが良いかと。私も同行しますよ」
「俺はヤムと合流しよう。海の様子も気になるからな」
「わかりました、バアルも気を付けて」

そして、この場に残ったのはアヌ様一人。あちこちの様子を天空から見ながら、つぶさに観察し――あることに気が付くのであった。


「くすん……二人とも、すぐに戻ってくるって……戻ってくるって言ったのに……」

異変が起きつつあり、不穏な気配の中、いつ魔神が現れてもおかしくないこの状況で一人残ることを選んだとはいえ、アーシラト様は不安にさいなまれていた。
辺りを見回してもダゴン様とヤム様、レヴィアタンが戻ってくる気配もなく、ただ静かに波が打ち寄せては返っていくばかりで、一層寂しさと不安感を煽る。

「皆、大丈夫なのかしら……私もどちらかについていくべきだった……? でも、もう遅いわ……」

すでに海は広がり、先ほどまで砂浜であった場所まで海水が広がっていた。
ふらふらと同じ辺りを行ったり来たりしつつ辺りを見回すアーシラト様だったが、遠方に何かを発見する。

「……! 小さい子供だわ」

アーシラト様は、倒れている子供を発見しすぐさま駆け寄り、倒れている子供を抱きかかえる。

「大丈夫? ……ぼろぼろだわ。どうしてこんなに……」
「ウーン……」
「大丈夫よ。私が守ってあげるから……」

しかし、アーシラト様がそっと抱きかかえるその子は、間違いなくクレプシード家の一人であるスヴェイであった。


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海上での調査を進めるうち、サイリスに遭遇。
そしてそののちにはファルとも遭遇する神々の一行。
どちらも何者かを追っているような、そんな焦りを感じた。

「追っているのはやはり、クレプシード家でしょうか」
「そう思うわ。スヴェイかヘレグが開けた裂け目を使って海上に現れたのかもしれない」

アプス様、ティアマト様がファルとサイリスの行動について思索を巡らせる。
現在、バビロニアの海にて力を宿した品々を回収する作業を進めている最中だ。

「ほわぁ、海の浸食が少しずつおさまってるよ~!」
「そうですね、力の宿った物を引き上げる作戦は上手く行っているみたいです」

海上からミツバチと共に海の様子を観察しているハンナハンナ様、
ハンナハンナ様やミツバチの誘導に従い、海底に沈む力を宿した品々を回収するヤム様とレヴィアタン。

「そちらの様子はどうだ?エンキドゥ」
「すな、どける。さけめ、ある」
「どこにある?」
「このした!」
「今度はここか。わかった、こっちに戻ってこい」

ギルガメッシュ様とエンキドゥ様もハンナハンナ様、ヤム様達と同じく海の調査を進めている。
海中にある裂け目は一見見つかりにくいところにあるが、ギルガメッシュ様の推察に従い調べていくとすぐにいくつも見つかった。

「ギル、かしこい。ギルすいりする、さけめある。すごい!」
「フン、当然だ。隠すようにあるのなら、隠しやすそうな所や死角を探せばいい」

「みんな順調に作業を進められているみたいだね」
「そうだな。アナト、魔神は片づけられたか?」
「もちろんよ!バアルお兄ちゃんとダゴンは大丈夫?」
「俺は大丈夫だ」 「こっちも平気。だから次はモートの手伝いを……必要なさそうだね」

拾い集めたものを狙い、襲ってくる魔神を片付けるバアル様、アナト様。
ダゴン様は直接の戦闘はせず、各方向から襲い掛かってくる魔神へ警戒をしつつ、戦闘の補助をしている。
「やれやれ…これだけ数が多いと相手にするのも面倒だな」
「そう?私は面倒でもないわ。少し物足りないくらいよ」
「アナトは戦いが好きだからな。確かに、サイリスやファルとやらの戦闘と比べると物足りないか」

魔神を討伐したモート様も合流する。
バアル様、アナト様、モート様は戦闘を得意としている神だけに
ただ魔神と戦うだけでは物足りないようだ。

「でも、皆のお陰で戦うのがある程度余裕あるのは間違いないよ」

ダゴン様はそう、笑顔で付け加えた。


バビロニア冥界1.jpg

その頃、バビロニアの冥界では、ニンアズ様がスヴェイとヘレグの治療を終えた所だ。

『はは!神サマはほんっとお人好しだな』
『キャハハ!オモシローイ!』
「おい待て!まだ完全に回復していないんだ、安静にしてろ!」
『だってよ、スヴェイ。こーんな所で安静だとさ』
『アンセー?』
『ずっと寝てろってこった』
『エー!スヴェイ、アソびたいー!』

「どうしたんだ、ニンアズ。急に騒がしくなったが……」
「わ~!クレプシード家が飛んでる!」
「ネルガル、ナムタル!安静にしろと言ったのに聞かないんだ」

スヴェイとヘレグは治療によってある程度の力を取り戻したらしい。
あれだけぼろぼろになり戦闘能力も失っていたはずだが、
今は空間をものともせず、ヘレグに至っては杖を構えている。

「エレシュキガル様の冥界で、勝手な真似はさせない」
『おーおー、怖いねぇ。なんだ神サマ、ケガ人相手に本気で戦おうってのかよ?』
「ネルガル、落ち着いて。あの二人ただ浮いてるだけだから、戦うわけじゃないよ。たぶん……」
「でも、何かあってからじゃ遅いよ」

「騒がしいわよ。なんの騒ぎ?」 「どうしたの、皆……まぁ!」
「エレシュキガル様!それにアーシラトさん、地上に戻ったんじゃなかったんですか」
「ええ、だってそこの二人を放っておけなかったんだもの」

そこの二人、とは間違いなくスヴェイとヘレグを指していた。
いつ戦闘が始まるかもわからない状況で、アーシラト様は変わらずスヴェイとヘレグを気遣う。

『まぁ……ここで一発戦って行っても仕方ねぇからな』
『どうせドンパチするなら、こんな辛気臭い冥界じゃなくて、派手なとこでやりたいもんだぜ。だろ?』
『ウン!ハデなとこー!キャハハハ!』
「確かにその通りだけど、辛気臭いだなんて言ってくれるわね」
「! エレシュキガル様の土地を侮辱するなんて許せない!」
たまらずネルガル様がスヴェイとヘレグに向かって太陽の力を込めた攻撃を放つ。
しかし、その攻撃はどちらにも当たらず、冥界にパッと明るい花火を打ち上げただけだった。

「逃げたわ!」
「い、一瞬で消えた!どこに行ったんだろう」
「くっ……力が回復してたから、隙間に逃げられたかな」

怒りをあらわにしながらも、周りの状況はしっかりと確認しているネルガル様。
指さす先には、暗い冥界では目立たないものの、深淵を覗かせる空間の裂け目ができていた。

「あそこに逃げ込まれたら、こちらも下手に追えないな……」
「いいわ、あの二人は逃がしておきましょう。あなた達が無事でよかったわ」
「ごめんなさい、エレシュキガル様……つい、発言が許せずに先走ってしまって」
「いいのよ、ネルガル。私を思って行動してくれたことは嬉しいわ。けれど、もう少し冷静さが必要ね」
「はい…!エレシュキガル様、頑張ります」
「ネルガル~、あのパッと明るくなるやつ、またやってほしいな。クルとエンビルルが見たら絶対喜ぶよ」
「さっきの……?もちろん!あれくらいならいつでもやるよ」

ネルガル様の笑顔は太陽のように明るくまぶしい。
バビロニア冥界は、先ほどの花火によるものか、安堵した神々の談笑によるものか、冥界らしからぬ温かさに包まれていた。

アーシラト様、そしてニンアズ様はなにか引っかかるものがあるような面持ちであったが。


バビロニアの魔塔01.jpg

バビロニアの魔塔では、アヌ様やエンキ様、ムンム様、シャマシュ様、シン様、アスタル様が情報の整理や指示を行っていた。

「この務めも重要ではあるが、戦いに行けないのは残念だね」
「私はこの仕事結構好きよ。みんなを支える大事な仕事だもの」
「派手さはないがの。空で見守る天体の務めと似ているわい」

「皆さん、少し休憩を……あの、紅茶を淹れたんです。アヌ様が、珍しい茶葉を開けて下さって……」
「へぇ、気が利くな。アヌ様の事だから、そろそろ誰かがさぼり始めたのが見えていたのかもな」
「えっ!?誰もさぼってなんていないわよ」
「そうじゃそうじゃ。ワシだってくたくたじゃ」

反論するアスタル様の机には資料の陰に隠すようにジャーキーがこっそり置かれていた事には誰も突っ込まなかった。
もっとも、シャマシュ様は本気で気が付いていないようだったが。

「あの……そろそろ、バビロニア冥界からも……報告があるかと思います」
「そうか、ありがとうムンム。君も少し休んだほうがいい、あちこち動き回っているじゃないか」
「いえ……!わ、私は……皆さんのお役に立てているなら、それで……で、では……!」

シン様に気遣われたことが嬉しかったのか、恥ずかしがりな一面もあるムンム様はすぐにその場を離れて行った。

「この紅茶とってもいい匂い!珍しい茶葉って言ってたけど、ムンムって色んな事に詳しいわよね」
「ふむふむ……ワシは紅茶に詳しくないもんでな、皆同じに感じるわい」
「やれやれ。ジャンキーなものばっかり口にしてるからですよ」


ぱたぱたとバビロニアの魔塔を駆け上り、アヌ様とエンキ様のもとへと戻ろうと廊下を進むムンム様。
戻った旨を伝える前に、小部屋から漏れるアヌ様とエンキ様の会話を耳にする。

「やっぱり逃げたみたいだね」
「スヴェイとヘレグ、ですか。予想通りで何よりですよ」
「エアもアスタルも頭が回るからね。順当に事が運んで助かるよ。ニンアズも何かに気付いているみたいだ」
「彼は聡いですから。冥界に居るだけあって生者と亡者の違いの見極めやいわくつきの体なんかを診るのは他の医神より詳しいと思いますよ」

声をかけるタイミングを失ったムンム様は、廊下で静かにアヌ様とエンキ様のやり取りを耳にしていた。いわゆる立ち聞きである。

「あと、たぶんスヴェイに触れたアーシラトも何かしらを感じ取っているかと。ヘレグを担いだオレがなんとなくわかったことがあるので」
「? なにを感じ取ったのかな。見るだけではわからない情報だから教えてほしいな」
「そうですね……」
「待って。ムンム、ご苦労様。立って話を聞いているのも疲れるよね?こちらへおいで」
「ひっ……!は、はい!」

結果的にではあるが、ムンム様が立ち聞きしていた事もアヌ様にはばれていたらしい。
ほっとしたような、申し訳なさがあるような心境のまま、部屋に入っていくムンム様。
そして、アヌ様とエンキ様のクレプシード家についての会話は、そのまま続く。
アヌ様は自身の領域であれば目が届く。冥界での会話も、把握している様子だった。


バビロニア冥界1.jpg

「クレプシード家の、少なくともスヴェイとヘレグについてある程度分かったことがあります」

バビロニア冥界にて、アーシラト様の前でそう述べるニンアズ様は口元に手を当て、何かを思案しているようだった。

「あの二人を診察した結果、確かに神の力を感じた。それは、ものに宿ったわずかな力……とかそういう程度ではありません」
「神とほぼ同等のものだったんです」

その言葉を真摯に聞くアーシラト様。スヴェイに触れた彼女も小さくうなずく。

「わかるわ。私は医神ではないから、感覚的なことでしかわからないけれど……」
「魔神や魔物に触れた時とは違ったの。ニンアズがそう答えてくれてよかったわ」

アーシラト様は安堵したのか優しく微笑む。
一人では不確かであった妙な違和感を、ニンアズ様が解消してくれたことによるのだろう。

「ですが……神であるなら、どの地域の神であるかも大体わかるかと思うんです」
「スヴェイとヘレグはそれがわからなかった。依然、正体不明ではあるんです」
「それに、継ぎ接ぎを境に神の力の質も微妙に違った。これもまた、余計に正体不明さに拍車をかけているような気がします」

ニンアズ様は診察結果から推測した考えを並べていく。

「……正体不明、なのね」
「ニンアズ、私はあの子を抱えた時に、それとはまた少し違うものを感じたわ」
「何かにしがみつくような、寂しいような、切ないような……そんな感じを」
「スヴェイ本人はそう思っている様子はなかったけれど、あの感覚は何だったのかしら……」

アーシラト様が静かにつぶやく。……そして、静かに立ち上がる。

「ニンアズ。私、あの子たちをもっと知りたいわ」

アーシラト様の目には、決意のような、強い意志が感じられた。
知ることで、敵対する必要がなくなるかもしれない。
わずかではあるが、希望を抱きつつアーシラト様は地上へと向かった。