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喧騒乱舞!戯れのトリックスター ストーリー

Last-modified: 2018-07-21 (土) 19:24:11

※○○にはユーザー名が入ります。

赤土の大地01.jpg

「あっ!目が覚めたみたいです!チーフ!チーフ!」

はっと目を覚ますと、目の前で三つ編みの黒い髪が揺れる。
どうやらアウィテリンツタ様が○○の目が覚めるまで、傍で見守っていてくれたようだ。
彼女いわく、自分は赤土の大地で一人伸びていたらしい。

……一人で?

それまでの経緯をゆっくりと思い出す。

出口のないハロウィンパーティー会場に閉じ込められるも、
その主催であるファルとサイリスを打ち破りなんとか元の世界へ戻ってくることに成功したはずだ。

そしてその会場には、ナビィやスヴェイ、ヘレグを含む数十名の神様が集結していたが……。
自分しか見つかっていないとなれば、他の神様らは一体どこへ消えてしまったのだろうか。

「そなた、疲れしときは吾に頼るべし。吾思うに、苦難を乗り越えし後に見ゆる」

アウォナウィロナ様があたたかいスープを手にしながら、優しく声をかけて下さった。
湯気と共に、柔らかく甘い匂いが漂う。トウモロコシのスープだろうか。

「あんまり顔色が優れないですね……。そうだ!お兄ちゃんが狩りに出かけてますから、きっとおいしいご飯を用意できますよ!」

確かに、アポヤンタチ様と彼のトマホークが見当たらない。
アウィテリンツタ様いわく、時間的にそろそろ戻ってくる頃合だという。
アウォナウィロナ様からスープを受け取り口に運んでいるうちに、外から足音が近づいてくることに気付いた。

「チーフ、アウィテリンツタ、今帰った……ん?目を覚ましたんだな」
「お兄ちゃん!おかえりなさい!ちょうど今お兄ちゃんの話をしていた所でした!」
「そうなのか?…そうだ、さっきプテサンウィに出会ったんだが赤土の神様で集まろうと言っていたんだ」
「? プテサンウィさんが?なんだろー!」
「それはねー!」

突然聞こえてくるプテサンウィ様の声。その方向を見やると、プテサンウィ様がすごいスピードで駆け寄ってきていた。

「他の地域の神様のとこに、招待状って言うのが来てたんだって!」
「招待状って?…それって何の招待状なんですか?」

プテサンウィ様の一言にいまひとつピンと来ない表情の神様達。
しかし、○○は招待状と言う単語に聞き覚えがあった。

「パーティーの招待状だってー!でも、差出人がわからないとか?」
「招待状…吾が家族のもとへは未だ来ず」
「ちょっと他の地域の神様の間で軽くウワサになってるみたいなんだー!」

やはり、神様達は招待状がどういった意図で配られた物なのかは把握していないようだ。
情報が広まっていないだけか、あの場にいた神様達はまさかあの空間に取り残されたままなのか――などと一瞬いやな予想が脳裏をよぎる。が。

「それでねー、そのパーティーにあわせてアタシ達もなにかしちゃおーよ!」
「便乗するってことですね!楽しそう!」
「ギリシャのパンドラやエジプトのオシリスも、もう会場につくころじゃないかなー!」

この会話ではっと気付かされる。
呼ばれていない神様の間ではあの出来事はまだ起きていないようだ。
あの空間から解放されたとき、ほんの少し過去の時間軸に放り出されてしまったのだろうか……。
神様達があの空間に取り残されている、と決まったわけではないようだ。
希望が持て、少しばかり心に余裕ができた。

とはいえ、まだ状況がわかりきっていない以上、あの空間で起きたことに関しては口をつぐんでいることにした。
未来から過去に来る神様達が、そこから将来が変わってしまわないよう細心の注意を払っていたことを思い出しつつ、目の前にいる赤土地域の神様達に再度耳を傾ける。

「どんなパーティーがいいかなー?どうせならジャーキーいっぱい食べたいねー!」
「さっきちょうど狩りに出ていたからな、早めに準備しよう。マサウたちも呼ぶか」
「いいですねー!チーフ、一緒にピーナッツクッキーたっくさん焼きましょー!」
「うむ。ケーキ、ナバホタコ、ジャーキー……そなた、好きな物を吾に伝えよ。吾が友のため、馳走を用意す」

赤土の神様達は、既にパーティーのことで頭がいっぱいなようだ。
その楽しそうな意見交換を聞いていると、完全に無くなるわけではないが不思議と不安な気持ちが収まっていく。
いつの間にかパーティーの準備に駆り出されつつ、○○の顔にはほんのりと笑顔が戻ってきていた。


赤土パーティ会場.jpg

神々とウェンディゴの討伐をはじめてからどのくらい時間がたったか。
日が暮れるまでがやたら早かった気がしたが、今度は夜が明けるまでがあまりにも遅く感じる。

「パーティーって聞いたけど、これはこれで楽しいかもな!色んな神様と力合わせて頑張れるとか、なかなかないじゃん?」
「おうよ!これだけ魔神が出るとなっちゃあ、片っ端からぶっ飛ばしていくに限るぜ!」

ウェウェコヨトル様とインドラ様の頼もしい声が聞こえてくる。二人はすでに一体のウェンディゴと戦闘しており、その戦況は優勢だ。

「これだけウェンディゴが大量に発生している原因はやっぱり砂なんだろうか?」
「だと思いますよ。やはりあの魔神、通常の魔神とは様子が違いますねぇ」
「倒せば倒すだけ力を増してきやがるんだ。あんな魔神、他じゃ滅多に見ないぜ」

イツァムナー様、玄奘三蔵様、ナタク様は別のウェンディゴと戦闘しつつ、互いの考察を交わしている。
やはり、あの瘴気を破れる力を持っていないと厳しい戦いになるとのこと。
それでも時間を稼ぎつつ、魔神をうまく討伐しているらしい。

「魔神調査の次は会場設営で、そん次は魔神討伐ときたか……こうなりゃヤケだぜ、何でもきやがれってんだ」
「オレ様を雑用させるなんていい度胸じゃねーか!ったくよォ!今のオレは虫の居所がわりーんだコラ!」
「ドクロちゃん、砂粒を数えて遊ぼうよぉ……グヒッ!ヒヒヒッ!いち、にぃ…」
「悟浄前見ろ!魔神いるんだからよ!……おっとあぶねっ!」
「ああああ!!ドクロちゃんの砂を散らかすなああああ!!」
「魔神にうまいことキレてくれたか……はぁ、ひやひやしたぜ」
「悟浄テメー!オレの獲物取んじゃねーぞ!」

孫悟空様、猪八戒様、沙悟浄様も三人タッグを組んで戦っているようだ。
倒すたびに力を増していく魔神だが、それでも討伐してみせる神様の戦いぶりは鮮やかで、見ていて気持ちがいい。

倒せば倒すほど力を増す……というのは進化魔神の特徴だ。
ネオ・ギガースに代表されるものだが、ファルとサイリスもその特徴を持っていたことが記憶に新しい。
まだ憶測の域を出ないが、あの砂がファル、サイリスの砂であり、
ウェンディゴがその砂から力を得ているのであれば進化魔神としての力を得ていることも納得できる。

○○はこのことを神々に伝えたくも、真実を話すタイミングを未だはかれずにいた。

その一方、各地から砂を一箇所に集めている神様らの作業は順調なようだ。
神様たちは魔神を討伐する係、砂を集める係と大雑把に別れ、それぞれ分担された仕事をこなしている。

「結構な量集めたな。赤土の大地だけでこれだけあるとは……」
「砂見ると、飛び込んだりかいて散らかしたりしたくなるぜ!」
「やめろ!これだけの量を集めるのに苦労したのお前もわかってるだろうが!」
「そうカッカしてたら頭に血が上るぜ?今度は何色の顔になるつもりよ」
「赤か?」
「いいから作業を続けろ!」

レイヴン様が指揮を執り、コヨーテ様、イクトミ様ら赤土の神様が集めた砂の管理をしているようだ。
世界各地の神々は一旦自分の地域に戻り、砂を採集してこの場所に集める……といったことを繰り返している。
気の遠くなりそうな作業だったが、神様たちは行方不明となった神々を助けたい一心で作業を淡々とこなしていた。

「クウラ、そんなに砂を抱えて重たくないか?」
「いや、問題ねぇっす!ここでへたってたらクーの兄貴に面見せらんねぇんで!」
「頼りになるなぁ!オレもこんな舎弟欲しいよ」
「オレもクーのこと、チョーリスペクトしてっからスゲーわかる。マジかっこいいよな!」
「うっす!兄貴の器マジ広いっす!」
「ラーマがリスペクトするとか、マジヤバくない?カヌーとかアタシも乗せてよ~!」
「カヌーってなんだ?オレも乗りたいぞ!」

カナロア様、クウラ様は南の島にあった砂を、
ラーマ様、シーター様、ラクシュマナ様、ヴァルナ様はインドにあった砂を集めているようだ。
お互いに協力し合いながら、大量の砂を運んでいる。

「クーもいなくなっちまったのか……」
「アキレウス、砂集めるの大変じゃないか?ギリシャの神様いっぱいいるし、手伝ってもらったら?」
「いや、大丈夫!体力には自信あるしさ。ヘパ兄の苦労考えたら大したことじゃねぇし」
「そうか、わかった!でも疲れたらいつでも言えよ」
「ヘルモーズこそな!」

アキレウス様とヘルモーズ様は協力しつつも、お互いにどれだけ砂を集めたのか競争しているようにも見える。
どんな状況であっても自身を高める修行を欠かさないところがたくましく、二人の良い部分だ。

「北欧の神々も手分けしたほうがいいかしら。他の地域でまだ集まりが悪いところもありそうだわ」
「ケルトの神様がまだここに来ていないのよね?少し様子を見てきたほうがいいかしら……」
「そうね。北欧はヘルモーズや北欧に留まっている神様に任せてそっちを見てきたほうがよさそうね」
「ふむぅ……心配じゃわい。まさか、ケルトの神がごっそりといなくなっているんじゃなかろうな?」
「……ありえなくもないな」
「ダヌやらダグザやらヌアダやらに連絡が取れればいいんじゃがのう。あの辺りに連絡が取れれば状況が読みやすいわい」

フリッグ様、イルマタル様、オーディン様、イルマリネン様は手薄になっている地域の心配をしているようだ。
ケルト地域の神様はかなりの人数があのハロウィンパーティー会場に捕らえられていた。
アメノトリフネ様いわく閑散としていたとのことだったので、まだケルト地域に戻ってきていないのだろう。
それぞれがケルト地域に向かうべく、支度を進めている。

「日本地域もあちこち砂ばっかだったねぇ…集め切れるのか心配になってきたよ」
「けど、アメノトリフネが砂集め手伝ってくれるから運び出すのはかなり楽だと思うぜ?」
「そ、そうかな?よっしゃ!そんじゃあもっと頑張るよ!」
「ヘヘッ、そうこなくちゃな!」

アメノトリフネ様は天鳥船に砂を乗せて一気に赤土の大地へ運び出している。
コトシロヌシ様もまた、アメノトリフネ様に手を貸しており、日本地域方面は心配なさそうだ。

「神々、迷いし魔神を救いたまえ。吾、この大地より友を支援し、祝福す」
「疲れたときはいつでも言ってくださいねー!ここでおいっしいご飯を用意してますからー!」
「アウォナウィロナの料理はいつ食べてもおいしーよねー!アタシにもちょうだい!」
「うむ。大いなる大地に感謝せよ。そなたに大地の恵みを与えん」
「やったー!アタシねー、ピーナッツクッキー大好きなんだー!」
「私も大好きですー!チーフの作るお菓子っていくらでも食べられますよね!」

アウォナウィロナ様、アウィテリンツタ様は二人で協力してパーティーに出すための料理を作っているようだ。
トウモロコシの甘い匂いや、クッキーなどの焼き菓子の匂いが辺りに漂っている。

「ハオカー、ジャーキーはないの~?」
「待て、コヨーテがほとんど食ってしまった。今準備をしているところだ」
「あらぁ……そうだったの?じゃあソツクナング、ハオカーのお手伝いしてあげて!」
「……御意」
「それでねぇ、マサウはみんなのためにホピタコの準備ね♪たくさん食べたいから、いっぱい用意してくれる?」
「はぁ!?ほんっと無茶振りやめろよな!」

タイオワ様、ハオカー様、ソツクナング様、マサウ様も料理の準備をしているようだが、
アウォナウィロナ様とアウィテリンツタ様と比べると手間取っているようだ。
途中でつまみ食いをしたりしていることが要因なのだろうか……。

「皆が手分けして作業してくれるお陰で結構な規模のパーティーになりそうだな」
「力を合わせるというのはきっかけがどんなことであれ、大事なことなのだと改めて気づかされるよ」
「うん!だからボクらも頑張ろう。色んな神様がいつやってきてもいいようにね!」

アポヤンタチ様、ココペリ様、ワカンタンカ様は会場に魔神が入り込まないよう辺りを見回りしているようだ。
同時に砂を持ってきた神様をあたたかく迎え入れている。

「わぁ、そのおっきな剣って包丁だったんですねー!」
『これが一番扱いやすいのでな』
「見事なる太刀捌き…否、包丁捌き。吾、感心す。賞賛を与えん」
「ナイトシアさんのお陰であっという間に仕込みが終わりました!」
『この程度、普段からしていることだからな。造作もない』
『うぬよ。クッキーが焼けておる』
「うむ。焼きあがりし時来たり。吾、ピーナッツクッキーを取り上げん。コメトンよ、味見をするか?」
『構わぬか』
「熱いので気をつけてくださいねー!」

コメトンとナイトシアの二人も赤土の神様に混じって支度をしているようだ。
それぞれに自分の意思があり、協力しあって事件を起こすこともあるクレプシード家。
つい先日のスヴェイやヘレグとの共闘を思い返すとともに、
コメトンの温厚な性格や、ナイトシアの義理堅い性格を目の当たりにすると、
クレプシード家の一派と和解できる日も近いのではないか?とつい期待をしてしまう。

しかし、クレプシード家……その正体の謎は更に深まるばかりだ。
あの口ぶりから、本人らも自分の正体を解っていないと見える。
もしくは、我々に知られたくないのだろうか?
その答えが近いうちに出るとは思えないが、もっと彼らを知る必要がありそうだ。

「お前もボケっとしてないで俺の手伝いをしろ」

神様たちの様子を眺めて作業の手を止めていた自分をレイヴン様がとがめる。

「へぇ、さぼりか?はは、レイヴンの前で堂々とするなんてやるじゃないの」
「さぼり?よっしゃー!棒飛ばして遊ぼうぜ!」
「お前たちも乗じてさぼろうとするんじゃない」

レイヴン様に声をかけられると芋づる式にイクトミ様とコヨーテ様にもばれてしまった。

「砂をみてるの、いつまでやればいいんだ?なんもおきないぞ!」
「確かにこれだけ大量に持ってきてもらったはいいが、今のところ変化も何にもないからな」
「まぁ、もう少し様子見とこうぜ。まだ集めてからそう時間は経ってないだろ?」

イクトミ様は蜘蛛の神だからか、コヨーテ様や、レイヴン様よりもじっと待つことが得意なようだ。
コヨーテ様は今すぐにでも走り出したくてたまらない顔をしているし、
レイヴン様はさぼりを発見したためかイライラしている。


そんなときに、エジプト地域から砂を集めてきたゲブ様、ヌト様が帰ってきた。

「ただいま!結構な量あったわ」
「エジプト地域はただでさえ砂まみれだから面倒だったけど、ほら」
「ふん、なるほど…これがエジプト地域にあった砂か」
「一回で運び出すのにわたしとゲブだけじゃ人手が足りなかったの。だから…」

抱えていた砂をおろし、ヌト様が後方を指差す。

「レウ、行くぞー!ゲレグ、あともうちょっとだからがんばれ!」
「だから、そう勝手に先行くなって……あぁ、ここだな」

セクメト様がレウに乗って砂を運びに来ているようだ。
しかし、セクメト様の更に後ろに見えるのは……間違いなくゲレグ様だ。

「はぁ……やっと赤土に来れたぜ。よう、あんたもここにいると思ったんだ」

ゲレグ様は自分を見かけると声をかけてくださった。
持ってきた砂をゲブ様らに託し、その場を少しばかり離れる。

「アンタ、ハロウィンパーティーに閉じ込められてたのを覚えてるか?」

その一言で確信したが、ゲレグ様は帰ってきた神様の一柱なようだ。
迷わず首を縦に振った。

「よかった!本当にオレだけ記憶がおかしなことになっちまってたのかと思ったぜ」

ゲレグ様は例のハロウィンパーティーの前々日の夜に戻ってきたのだという。
オシリス様の手にしていた招待状で日付を知っていたために、
多少過去に飛ばされてきたのだと把握したのだそうだ。
そしておそらくは○○よりも、早い時間帯に到着してしまったのだろう。
状況を察したゲレグ様は黙って何事もなかったかのように日常を過ごし、
その裏で独自に情報を集めていたのだという。

「ハロウィンパーティーのときのファルとサイリスって言ったか?あいつらと各地で見かけた見慣れない魔神、それとウェンディゴ。そいつらを過去に魔神になったときのセトやらと見比べてみたんだが……」
「やっぱり、普通の魔神とは違うようだな。倒すたびに力を増していくのはアンタもすでに知っているだろう?」

ゲレグ様は目線を移す。その目線を追いかけていくと、レイヴン様たちが砂の管理の押し付け合いをしている所が見えた。

「あれだな。あの砂、アンタなら気づいてるかと思うが双子の使ってた砂が混じってやがる」
「ウェンディゴや各地の魔神が入り乱れてんのはあの砂が原因にあるのは間違いねぇ。対処として集めておくのも間違ってねぇと思うぜ」

ゲレグ様が確信を持って仰ってくださることで自信を持つことができた。誰かが保障をしてくれるのは心強い。

「あと、オレが戻ってきたときの状況を教えておこうか。…あの砂にまみれてたんだよ。行きも砂まみれだったからな、帰りもそうなるんだろ」
「なぜアンタとオレが先に帰ってこれたのかわからねぇが……一日ごとに誰かが戻ってくるってんならそのうちもう一人くらい帰ってきても悪くねぇ頃合だよな」
「…とはいえ、アンタも気を張りすぎんなよ。これだけ神がいるんだ、疲れたら休んだって罰当たらねぇさ」

どうやら、ゲレグ様はまだエジプトに残った砂を集めに戻るのだそうだ。
自分以外にもあの場から帰ってこれた人物がいることに、内心力づけられつつゲレグ様を見送る。


「……なんだ、またさぼりか?」
「レイヴン、ああいう所で水を差すのは無粋ってもんよ。お前こそ、辺りにばっか気ィとられてないで手を動かしたほうがいいんじゃね?なぁコヨーテ」
「やべー!投げやすそうな棒見つけた!イクトミ!レイヴン!これ見ろよ!」
「お前はまわりを見なさすぎだ!」

少し離れた位置からレイヴン様ら三人組の声が聞こえてくる。
イクトミ様が腐れ縁と言っていたが、なんだかんだといいつつお互いの相性がいいのだろう。
言い合いをしているようであっても、それも楽しそうな光景に見える。

「待たせたわね……!」

バビロニアからようやく駆けつけたティアマト様とナムタル様がレイヴン様らの傍に走り寄る。
様子を見に行った鳳凰様、ホロケウカムイ様もその傍に寄った。
ティアマト様は確認したいことがあるために、集合に時間がかかっていたそうだが、その用件が終わったのだろう。

「やっと来たか。何を確認していたんだ?」
「時間がかかったことについてはナムタル……こっちのバビロニア冥界の神が話してくれるわ」
「へぇ…?バビロニア冥界の神まで来るとは思ってなかったわ」
「どうも、エレシュ姉さまの代役として来ました。色んな神様が集まってるんですね~」

バビロニア冥界の神様は地上に出てくることが少ない。
バビロニア地域の神々ですら、あまり会話をしたことがないという神様も多いようだ。
他地域の神様は更に交流が少ないのだろう。

「バビロニア冥界からわざわざ来たということは、何か用件があるのか」
「はい、目の前で起きたことだったんでびっくりしちゃいまして……」
「その話……私は先に聞いたのだけどびっくりしたわ。○○はここにいるわよね?」
「あぁ、ちょうどあっちに姿が見えたよ。ちょっと面貸しな」

鳳凰様に手招きされ、神様達の輪に入る。
ティアマト様もナムタル様も驚いた様子だ。

「ナムタル、本当なのね?」
「はい!あぁ、本当にここにいるなんてびっくりしたよ。なにせ、僕らの目の前でいなくなったものだから」
「いなくなっただと?!」
「○○は砂にまかれて、ナビィと一緒に消えちゃったんですよ。無事でよかった」

ナムタル様以外の神様たちが一斉にこちらに顔を向ける。

「バビロニア冥界の神々の力が戻ったあと、砂にまかれて消えてしまって……すぐさまバビロニア冥界を探索したんですよ~」
「それで見つからなくて、アヌや私に報告してくれた……ということだったのね」
「そういうことです」

「そんなことだろうとは思ってたよ」

真後ろに声が聞こえ、距離をとりつつ後ろを振り向くとアヌ様が微笑みながら立っていた。
いつの間にこんなに接近していたのだろうか……。

「あなたは、僕が知る限りでは赤土の大地に突然現れたんだ。コメトン=クレプシードのようにね」
「あの瞬間に空間を瞬間移動していたということなのかしら……」
「どうだろう?僕からしてみれば、あなたは何かを隠しているように見えるな」

やわらかい言葉遣いと表情とは裏腹に、じりじりと追い詰められているような気さえ感じる。
アヌ様に迫られると妙なプレッシャーを感じてしまうのは自分だけだろうか……。
時間軸的にもハロウィンパーティーのあとのはずだ。
下手に取り繕うことはやめ、全てを素直に話すこととした。

ハロウィンパーティーと称した事件に巻き込まれたこと。
ここで行方不明となっている神様はその空間に捕まっていること。
スヴェイ、ヘレグと共闘したこと。
砂を操る謎の双子、ファルとサイリスと戦闘したこと。
自分だけではなくゲレグ様も実はその空間に捕まっていたメンバーであったこと。
少しばかり過去に戻ってきてしまったことから、事件については黙っていたこと。

これら全てを述べると、アヌ様を抜いた辺りにいる神様は、先ほど以上に信じられないといった表情になっていた。

「つまるところ、お前は真実を知りながら黙っていたってことだな」
「まぁまぁ。確かに驚いたが消えた神様が無事そうってんならいいじゃないの」
「砂でできた城があったのか!?すっげー!おれもつくりてー!」
「ヌプリコロカムイも、まさかインドの神になついているとはな……後々礼をしなければ」
「麒麟のやつ、そんな状況になっても甘ったれたこと言ってたのかい。本当にしょうがないやつだよ……」
「アプスも無事そうだったのね。本当に良かった……でも、一人で黙ってるなんてずるいわね」
「本当にね。けど、未来が変わっちまって何が起こるかわからなくなるっていうなら、仕方がないのかね」

神様の反応はそれぞれだ。そしてそのどれもが当然のものだと思う。
アヌ様は何を考えているのか、何を見ているのかわからないが、この場にいる神様と比べると無機質な表情を浮かべている。

「ん?どうした!?」

妙な空気を破ったのはコヨーテ様の一言だった。
コヨーテ様の連れる小さなコヨーテが突然、集めた砂をほじくりはじめたのである。

「あっ!?おい!せっかく集めた砂を……コヨーテ、早くやめさせろ!」
「おれも掘りたい!なんかある気がする!」
「なんだなんだ、一攫千金ってやつか?待ったかいがあったってもんよ」
「ふざけてる場合じゃないだろう!」
「はは、そういうなって。レイヴン、お前もこういうときのコヨーテのカンは強いの知ってるだろ?」
「だからといって……」
「あんたも、ちょっと砂に寄ってみればいいんじゃね。なんか見つかるかもな」

はじめこそ止めようとしていたレイヴン様だったが、イクトミ様に説得されてあきらめたようだ。
イクトミ様に手招きされるがまま、コヨーテ様のいる砂山を覗き込んでみる。

「あっ!なんかいる!みろよほらー!」

その一言のすぐあと、砂の山からコヨーテ様が砂に埋もれた何者かを抱えて引き上げる。

「ナビィだね」

アヌ様はすでに知っていたかのようにつぶやく。
砂にまみれているが、確かにナビィのようだ。

「う、うぅ~ん……!」
「ナビィ、大丈夫?」
「はっ!こ、ここは……!?」

砂まみれのナビィだったが、すぐに気がついたようだ。

「た、大変です~!色んな神様が変なパーティー会場に捕まって……!」
「ナビィ大丈夫?落ち着いて。ここなら色々な神が集まっているわ、安心してちょうだい」
「ティアマト様!……あ、コヨーテ様!?わぁ~すみません!」

コヨーテ様に抱えられたままだったことに気がついてナビィは顔を赤らめて慌てているようだ。
普段どおりの様子から、周りの神々と共に一安心する。

ナビィはあのハロウィンパーティーで起きたことの詳細を述べてくれた。
そのどれもが自分の述べたことと一致し、神様たちは目を丸くする。
ナビィの意見や、ナビィが戻ってきた状況に加え、ゲレグ様の意見から
あの場に捕らえられたままの神様はこの砂を通してこちらの世界に戻ってこれるのだろう、と仮説が立てられた。
各地で点々と砂が残っているが、その砂がこの場所にまとめられるのであれば
行方不明になっていた神様を保護しやすいだろう、との話にも至る。

まだあの空間から戻ってこれた人物の人数は少ないが、
ナビィが帰ってきたことで他の神様の士気も一段と上がったように見える。
他の神様を救うべく、各々は再び自分のやるべきことに専念することとなった。

赤土パーティー会場から宴の火が消えるのはまだ先になりそうだ。