百神~ヒャクカミ~データwiki

時ノ欠片~第四章~ ストーリー

Last-modified: 2018-07-21 (土) 19:26:07

ギリシャ平原1.jpg

※○○にはユーザー名が入ります。

「知らないなら教えてやるよ!星にまたたく英雄がいるって話!」

のどかな昼下がり。
ギリシャ平原には柔らかい風が吹き、絶好のピクニック日和だ。
○○はギリシャの神々とともに、ギリシャ平原でのんびりとした時間を過ごしていた。

「またその話?もう何度も聞いたわ」
「オリオンの自慢だからね。誇れることがあるって素敵だと僕は思うよ」

オリオン様、アテナ様、ペルセウス様も○○と共にここギリシャ平原で休憩をしており、
ちょうどオリオン様が強引に自分の英雄伝を語ろうとしているところだ。

「そうそう……って、オレの事だってばらすの早くないか?別にいいけどな!」
「あぁ、自分で語りたかったかな。つい口が滑ってしまったよ……」
「そういうわりには、オリオンったら嬉しそうね」
「えっ?……あ、わかった。アテナ、お前本当はオレの話聞きたかったんだな!」
「どうしてそうなるのよ」

噛みあっているのかいないのか、妙な会話をする3人。
そうしているうちに、三人の耳には遠方からの声が届く。

「アテナー!あ、ペルセウスとオリオン、○○もいる!こんにちは!」
「パラス!来てくれたのね」
「うん!平原広いから探しちゃったけど、すっごいいい気分!天気がいいからかな?」
「今日は一段と穏やかな日だよね。静かで過ごしやすいよ」

休憩するメンバーにパラス様が加わることで、一段と賑やかさが増す。

「オリオン、今日はプロキオンとシリウスとは一緒じゃないの?」
「後で来ると思うけど、そういえばまだ来てないな」
「猟犬だから、迷子になることはないと思うけど……いつ頃来る予定なのかい?」
「昼過ぎ、夕方くらいに待ち合わせしてるんだ。プロキオンに星座を教えてやろうと思ってさ!」
「ふふっ。どうせ、自分の話ばかりしたいんじゃないの?」
「素直に言っていいんだぜ!夜になればオレの星座を見ながら英雄伝を…」
「馬鹿ね、季節外れよ。今はあなたの星座、見えないじゃない」

神々の輪に混じり談笑する。
魔神との戦いの間にある、些細な出来事ではあるが、疲れを癒すには十分だ。

「それなら、わたしもオリオンの話、聞いてみちゃおっかな!」
「え?パラス……本気?」
「もちろん!だって待ってたらプロキオンにも会えるんでしょ?」
「じゃあ決まりだな!ペルセウスはどうする?」
「せっかくだし、僕も参加しようかな」
「二人とも……そうね。たまにはこういうことも悪くないわ」

○○もこの場に留まり、プロキオン様とシリウス様、そして夜を待つことになった。
上機嫌なオリオン様の笑顔がまぶしい。


しかし。

「……変だな」

一番初めに異変を口にしたのはペルセウス様だ。
そして、ペルセウス様だけではなく他の神々も異変を感じていた。

「あなたも感じていたのね……一向に夜が来る気配がないわ」
「こんなに昼が長かったことって、今までなかったよね」
「確かに今って日が長い季節だけど、こんなに長かったことはないよな」
「夜が来ないなんて、何があったのかな……?」

皆が感じる異変とあって、神々の表情が険しくなる。
そこにちょうど、空を駆けるナビィの姿が神々の目に映る。

「ナビィ!ちょうどよかった!こっちこっち!」
「あっ!パラス様~!それにオリオン様、アテナ様、ペルセウス様……○○様!お会いできてよかったです~!」
「随分と慌てているね。何かあったのかな」
「は、はい~!大変です、ニュクス様の姿が見当たらないんです~!」
「ニュクス……!?」

神々が驚くのも無理はない。
ニュクス様はギリシャ地域の夜の女神であり、
夜にまつわる神々や、夜闇から連想される不吉な力を持つ神々をまとめる力のある神だからだ。

「そっか……夜が来ないのはニュクスさんが捕まったからなんだな」
「そうみたいです……!ギリシャ地域で時間の乱れが起きているのは間違いないみたいなんです」
「このままだと、ずっと夜が訪れない世界になってしまってもおかしくないな」
「それにエレボス様の姿も見当たらないんです。きっとニュクス様を探しに行かれたのかもしれません……!」

エレボス様はニュクス様と夫婦関係にある幽冥の神で、現在はニュクス様と共に冥界で静かに暮らしている神であるらしい。
夫婦仲は良好なだけに、ニュクス様の姿が見えないのであればエレボス様もすぐに気が付くか、共に捕まっているかのどちらかではないかと予想をする神々。

また、ナビィいわく、ヤヌス様が時間の乱れを発見し、それについてナビィが調査をしたところニュクス様が見当たらない事に気が付いたらしい。
夜の神と言えば、つい先日もインド地域の夜の女神であるラートリー様が捕らえられたことが記憶に新しい。
ラートリー様はウシャス様らの助けもあり、なんとか救出する事が出来たが……。

「ようやく追いついたか。うつつを抜かしている場合ではないぞ、ご主人様よ」
「ワン!プロキもがんばって走ったよ!」

ちょうどいいタイミングで駆けつけてくれたのは、待ち合わせの予定があったプロキオン様とシリウス様だ。

「あっ、シリウス!プロキオン!よく来たなー!今ちょうどナビィと話しててさ」
「異変の話か?それについてだが、俺も伝えたい情報がある」
「あのねあのね、プロキが見つけたんだよ!」
「プロキオンが?この異変に関連のあるものってことよね」
「おそらくはな」

シリウス様、プロキオン様に案内を依頼し、一行は先を急ぐ。


「これは……!」

ナビィや神々が思わず息を飲む。○○もまた同じようにその光景を目の当たりにしていた。
そう、空間に黒い裂け目が生じているのだ。
黒い裂け目は、以前にも様々な事件を引き起こしていた。
そして、そのどれもが裏側でクレプシード家が糸を引き、起こしていた事件であったことが脳裏によぎる。
で、あれば。

「それなら簡単だろ!この中にニュクスが捕まってるなら、助けに行けばいいんだ」
「……それもそうね。今までだって、同じように事件を解決してきたんだもの」

オリオン様の言葉を受け、神々の士気が高まる。
裂け目が現れた事件はこれで4度目か。

「そ、そうですよね!ではナビィもがんばります!……あの子のことも、知りたいですし!」

ナビィも闇ナビィについて多くをまだ知らない。
闇ナビィだけではなく、魔神やクレプシード家……そしてファルとサイのこと。様々なことが謎に包まれている。
目の前で起きている事件や謎を解決するべく、神々と共に裂け目の中へと乗り込む。


幽幻ノ砂丘.jpg

シグリエ=クレプシード。
それがこの、目の前にたたずむ白衣の人物の名だ。
5人目のクレプシード家は、自慢げに16本の腕をかざし、異形な姿を神々にさらす。

『ワタシの世界へヨウコソ☆ と、歓迎したい所なのですガ……』
『残念ですネ。アナタ達はいわゆる侵入者ですから。排除しないと気が散って仕方ないんですヨ』
「排除?何を仰っているのか存じませんが。私の力を奪っておいて、何が侵入者ですか」

シグリエの発言に対して食ってかかったのは、当事者であるニュクス様だ。
力を奪われ、好き勝手に扱われたことに対し、静かに憤っている様子が見て取れる。

『おっと、こわいですネ……ですが、お陰様でとーっても色々な実験を試せましたヨ』
「実験?なにをしていたんですか?!」

ナビィも恐る恐る声をあげ、シグリエの発言を促す。

『そう簡単に喋っちゃうわけないじゃないですカ』
『でも……そうですネ。せっかくここまで辿り着いているのですし、ちょっとはお話しましょうカ』

ヘレグのように、シグリエは大げさにポーズをとりながら、焦らしつつも話し始める。

『ずばり、神の力とハ?魔の力とハ?その差の研究ですヨ』
「神の力と魔神の力?」

シグリエの発言に、この場に居る神々はざわめく。
聞き返したのはアテナ様だった。

『ええ、アナタがた神サマも、知っているでしょウ?神の力と魔の力……この二つの力があることヲ』

シグリエは顔の大半をマスクで覆っているため、表情を伺うことはできないが、その声色である程度の感情は読み取れる。
どこか嬉々とした声色で述べるシグリエに、少なからず寒気のような気味の悪さを覚える。

『この二つの力、調べても調べてもそれほど大きな違いはないのでス。魔の力に、多少不純な力が混じっているくらいなのですヨ』
「ということは、その不純物が魔の力となるきっかけと言う事かな?」
『あーあ、賢いですネ、その通りですヨ』
「なるほど……?」

静観していたペルセウス様がシグリエの発言に相槌を打つ。
ペルセウス様はこの裂け目の中であっても常に冷静に状況を見て判断していた。それはこの場でも変わらないのだろう。

「ってことは…オレ達神と魔神はそう違いのない存在ってことなのか?」
「シグリエの意見が正しければ、そういうことになるだろうな」
「オリオンしゃんや、おにいちゃも…?」
「さぁ、どうだろう。俺はあいつの意見を鵜呑みにするつもりはないからな」

シリウス様はシグリエの発言から隙を伺っている。
オリオン様、プロキオン様はシグリエの発言がどこか引っ掛かるようだ。

『信じる信じないは勝手ですヨ。アナタ達とは対立している存在ですからネ?はなから信じてもらえるなんて微塵にも思ってないでス』
『ワタシはワタシの実験結果を信じ、進んでいるだけですかラ。罠で時間稼ぎも、コメトンやヘレグの体を拝借するのもいいデータ収集になりましたヨ!』
『お陰で、このワタシにも幻影の再現ができたのですからネ!』

シグリエは一本の腕に手にしたメスを回しながら、神々を一瞥する。

「幻影の再現……ふむ、興味深い発言ですね」
「……わたしはなんであなた達と対立しなくちゃいけないのかわからないの」
『なんで?と、言われましてもネ……』
「戦うことが好きなのかしら。それとも死に急いでいるの?」
「どちらにしろ、お互いに無益な事じゃねぇか。くだらないことはこれくらいにしておとなしくしてくれ」
『……フフ』

『あーあ。神サマってのはそこまで愚かだったのですカ。正直、ドン引きですヨ』
「えっ、ドン引き……」
『ええ。その発想が随分とおめでたくてですネ。いやぁ、すごいでス』

「おっと、あぶない」

突如、エレボス様が結界を張る。
すると鋭い力が、エレボス様の結界に弾かれる轟音が響く。

「突然攻撃を仕掛けてくるとは、紳士的ではありませんねぇ……」
『何か勘違いしているようだったのデ。思い知らせてあげたのですヨ』

『対立の意味が分からない?戦いが好き?死に急いでいる?お互いに無益?くだらないこと?アッハハハ!どれも不正解ですヨ!』
『いい加減、自分たちの物差しで、我々を測ろうとするのはやめてもらいたいものですネ』

『正直、不愉快でス』

その一言のあと、砂丘の力が変質する。


『キャハハ!追いかけっこ!タノシイ!』
『呑気なもんだぜ。こんな所で油売りまくってナイト姉さん怒ってんじゃねぇか?』
「こっちに逃げたーっ!回り込めーっ!」
「こっちね?!逃がさないんだからー!」
『おっと!あっぶねぇ。矢を飛ばすのは反則じゃねぇか?』

夢幻ノ砂丘の一角。
スヴェイとヘレグは二手に分かれたもう一方の神様達……
アポロン様、アルテミス様、アストライオス様、エオス様、ヘリオス様に追われていた。

「う~ん、すばしっこいな~!それに動きが読みにくいよ」
「ボクらが囲んでも、少しの隙を見つけて逃げちゃうからね……」
『スヴェイはここダヨ~♪』
『はぁ、こっちはもう疲れたっての。もう十分遊んだだろ?』

辟易とした表情のヘレグと溌剌とした表情のスヴェイ。並んでいるために、その差が際立つ。

「……そういえば、夢中で追いかけて来たからかな?ここどこだろう」
「砂がいっぱいだよね!これってもしかしてアレかな?!アキレウスが集めてた砂!」
「よく知ってるね~…」

情報通のヘリオス様は、以前アキレウス様が突然現れた砂を集めていたことを知っていた。
そしてその砂が、ここ夢幻ノ砂丘に積もっている砂と似ていることも。

『へれぐー、アレ、ナニ?』
『ん?どうした?……あぁ、結構派手なことやってんなぁ』

スヴェイは遠方に何かを発見し、指をさしてヘレグに伝える。

『じゃあスヴェイ、どっちがあそこまで先に行けるか競争な』
『ウン!競争する!スヴェイ負けないヨー♪』

スヴェイとヘレグは進行方向を変え、見つけた何かの方へ向かう。
唐突な進路変更に、神様らの反応が遅れる。

「わっ、ちょっと!突然どこ行く気なのよ~!」
「あっちに飛んでったみたい!追いかけよう!」
「何かあったのかな?ヘリオス、何か見える?」
「待って!今見てるからー…おっ?」
「何か見えたの?急いで!」

神具の双眼鏡を覗き込むヘリオス様がその目に捉えたのは、
逃げ行くクレプシード家の二人と……

「スクープ!スクープだよーっ!あっちでアテナ達が戦ってるーっ!」

静かな砂丘に、大きくヘリオス様の声が響いた。


シグリエは近接戦闘が得意な神が多いことを知っているのか、神々を近づかせないように広範囲に攻撃を仕掛けながら距離を取る。

「困ったわね……全然近づけないわ」
「砂が巻き上がって、目や口の中に入っちゃいそう……うぅっ、アテナ大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。でもこのままじゃらちが明かないわ」

攻めあぐねている神々。さらに、その後ろから聞こえる足音をオリオン様は聞き逃さなかった。

「後ろからも来てるぜ!この足音、さっき戦ったやつじゃないか?」
「と言うことは、ナイトシアとコメトンですか?!」
「砂埃がひどくてまともににおいを拾えないな……そっちの討伐にあたったほうがいいか」

すさまじい砂嵐の中に、ざくざくと砂を踏む音が聞こえる。
この音を聞き分けることは並大抵のことではない。
そしてその予想通り、砂嵐の隙間から大剣を担いだナイトシアと、コメトンの姿が見える。

「そうだな、アテナ!オレ達はこっちの相手してくる」
「ええ、わかったわ。そちらは任せるわね」
「ワン!おにいちゃ、がんばろ!」
「ああ。だが無理はするなよ。何かあったらすぐに俺の後ろに隠れてくれ」

『先に行ったと思ったが、やはりシグリエと戦闘していたか』
『うむ、この周囲に散らばる力……シグリエのものか』

到着したナイトシアとコメトンは、すぐさま起きている戦闘がシグリエと神によるものだと判断する。

「待てって!ここから先は通すわけにはいかないからな」

シグリエに接近しようとするナイトシアとコメトンの前に、オリオン様らが立ち、その進路を阻む。

『その道を開けてもらおう。私達は無用な争いを避けたい』
「随分弱腰だな!まぁ、有名な英雄がここに立ってるんだ。そう思うのも当たり前か!」
「御託はいい。シグリエははっきりとクレプシード家は俺達神の敵だと言った。だから道を阻んでいる」
『む……うぬらよ、わしらの邪魔立てをする気か』
「う……プロキも、がんばる……がんばるって、言ったの!」

「オリオン達がナイトシアとコメトンに接触したみたいだね。僕らも早く片付けよう」
「そうね!大丈夫、数ならこっちが有利だもの」
「油断はできないわ。まだ相手は何か隠しているような気がするの」

『隠すですカ……まぁ、ワタシはたくさんの手段がありますからそう思われて結構でス』
『とはいえ、ワタシは戦うのが苦手なのデ……』
「兄さん、そこ。ちょうどいいわ」
「ああ」
『む?』

シグリエが見せた一瞬の隙に、ヒュプノス様とタナトス様が入り込み、神技を食らわせる。
死の神が持つ神技は、一瞬にして命を奪うほど強力なものだが……。

「チッ、うまいこと外したな」
「惜しいわ。あともう一歩で幸せに眠らせてあげられたのだけど」

シグリエは間一髪避けたため、致命傷を避けたようだ。

『ふぅ……驚かせないでくださいヨ。この腕だってつけるの大変だったんですかラ!』
「なるほど、やはりあのたくさんの腕は後天的なものでしたか」
「と、言う事は。どちらから其れを手に入れたのでしょうね。何を継ぎ接ぎしたのかしら」
『アナタ達が知る必要はありませんヨ』

すると、タナトス様とヒュプノス様が何者かが巻き起こした砂嵐に吹き飛ばされる。

『遅かったですネ、スヴェイとヘレグ』
『なーにが遅かったですネだ。あちこち移動してたのはアンタじゃねぇか』
『かくれんぼ?追いかけっこ?キャハハ!タノシイ!』

「不意を突くのは敵も同じってとこか。ヒュプノス、立てるか?」
「ええ、大したダメージじゃないわ。砂の上に吹き飛ばされただけだもの」

「やっと合流できた~!」
「あっ、で、出た~!腕がいっぱいあるクレプシード!」

スヴェイとヘレグに遅れる形で、アポロン様、アルテミス様、アストライオス様、エオス様、ヘリオス様が到着する。

『おや……?アナタ達も夢幻ノ砂丘にいたのですカ』
「ちょーすごい!ホントに腕が、いち、に、さん……」
「16本かな?色んな道具を持ってる……!」

『さて、スヴェイとヘレグが揃ったことですシ……さっさとこの実験も終わらせるとしましょうカ』
「何が実験ですか。貴方の自慢げに語る物は全て歪で全くもって美しくない。眩暈がします」
『ワタシに力を取られて何を言っているんですかネ?純度の高い夜の力が得られてワタシは満足しているので、アナタはもう帰っていいですヨ』
「いい加減になさい。無駄口は好まないの」

ニュクス様が一歩前へ出る。シグリエを逃がすことなくこの場で討伐する。
その強い意志がニュクス様の伸びた背筋からはっきりと伝わった。