追討!オーディンと波乱の宴 ストーリー
※○○にはユーザー名が入ります。
北欧地域にある雪の森の一角。
○○の周りには北欧の神々である
オーディン様、トール様、ロキ様、シギュン様、フレイ様、フレイア様らが集まって会議をしている。
……と言っても、この会議は深刻な内容などではなく……。
「お主……まさかそれを今持ち出しはじめるとは思っていなかったぞ」
「なーにを言う!ワシは言ったじゃろう?宴の余興にお主の花嫁姿はちょうどいいとな!」
「誰が二度となるか。ワシはもうあの格好になる理由もないのでな」
「宴は理由にならんとな?寂しいのう……」
トール様の花嫁姿と言えば、以前トール様がなくした神具ミョルニルを探し奪還すべく行った変身だ。
変身とは言え、涙ステッキには衣装を変える程度の力しかない。そのためトール様は花嫁姿になることを嫌がっていたようだが……。
「あーあ、オーディンがっかりしちゃったジャン!ちょーっと宴に出るだけだぜー?」
「そのちょーっとが嫌なのだと言っておるだろう」
「ヒラヒラの衣装も、よく似合ってたよ。クスクス……」
「そーそー!アタシ達も思いっきり楽しんじゃったし、またやりたいなー!」
「うむ…そう言われてもだな……?」
悩むトール様とは裏腹に盛り上がる周りの神様達。
確かにあの変りようは見ていてとても面白かったが……
そんなことを考えていた矢先に、オーディン様が口走る。
「トールがやらぬのなら、いっそ次はワシがドレスを着る番じゃな!美女になってみせるぞ!ワハハハハ!」
この場にいた神々が一同に沈黙する。そして次の瞬間吹き出し、さらに盛り上がる。
「え!?オーディンの爺さんが変身するの!?」
「アッハハハハハ!いいジャン!オーディンが変身したらさー、もっとこう……面白くなりそうだし?」
「フフ……それはいい考えかも。私達も、オーディンの変身見てみたいな」
その中で、オーディン様本人ではないにもかかわらず、トール様は困惑した表情を浮かべている。
「お……お主ら正気か……?!ワシの変身もさることながら、オーディンのものも見るに堪えられん予感がするぞ」
「さて、どうかのう?お主まだワシの変身を見とらんじゃろう。案外、セクシーに着こなすかもしれんぞ?」
「それならすぐに衣装の準備しなくちゃねー!ロキ、アタシ準備してくる!」
「じゃーオレも折角だから侍女の変身またやっちゃおっかなー!アハハ!」
「私達も、シヴ達を連れてくるね。きっと飾りつけ、綺麗にしてくれるから」
「ワシも準備するかのう!こりゃ宴もフィーバー間違いなしじゃあ!」
散り散りに別れ、それぞれ準備に走る神様達。
あとに残されたトール様は、自身がウェディングドレスを着たときのことを思い出し、顔を青ざめていた。
「また恐ろしいことをはじめようとしおって……ワシは知らんぞ」
トール様もまた、大きなミョルニルを肩に乗せ、その場を後にした。
「おかしいな……!確かにここにあったはずなのに」
眉間にしわを寄せ、頭を抱えながら同じ場所を行ったり来たりしているのはスリュム様だ。
○○は北欧の神々と別れたあと、ナビィと合流し、雪の森を散策していた。
その最中に、悩めるスリュム様とばったり出会ったのだ。
「スリュム様、なにかあったのですか~?」
「あぁ、○○、ナビィ!ちょうどいい所に……。この辺りで、金のアクセサリーを見かけなかったか?」
「金のアクセサリー……?」
金のアクセサリーが道端に落ちていれば目立つだろうし、そんな目立った落とし物を見かけた覚えは○○にもナビィにもない。
そのことを素直にスリュム様にお伝えすると、がっくりとうなだれてそのまま座り込んでしまった。
「残念だ……!少し目を離した隙に落としてしまったのだろうか。せっかく蒐集した、見事な細工のアクセサリーだったというのに……」
スリュム様いわく、そのアクセサリーは見事な金細工でできており、やっと手に入れた宝物とのことだった。
このまま別れるのも忍びないほどに落ち込むスリュム様を慰め、○○とナビィはその金のアクセサリーを探すこととなった。
金のアクセサリーを探しつつ、雪の森を探索してしばらくすると、突如不穏な気配を感じ足を止める。
この気配は間違いなく魔神によるものだろう。
ナビィとスリュム様も気が付いたらしく、同様に足を止め辺りの様子をうかがう。
「魔神が出現するのは珍しいことじゃないが、このタイミングでか……少々面倒だね」
「き、気を付けてください~!……とりあえず、あの茂みに隠れましょう!」
茂みに隠れることで、一旦状況を把握し情報を整理することができる。
ナビィの案は最善案だと考え、○○はナビィ、スリュム様と共に茂みに身を隠した。
それから数刻後、森の中を巨大な魔神が後ろから前へと走り抜ける様を目撃する。
あの道化師のような異様な姿の魔神は、間違いなくロキ様の魔神であった。
ロキ様の魔神が過ぎ去った後、気づかれることなくやり過ごすことができた安堵と同時に、スリュム様がつぶやく。
「二人とも、さっきの魔神の手を見たか?……きらりと光ったように見えたんだが」
その発言のすぐ後に、女神の叫ぶ声が聞こえる。
「ロキーッ!ちょっとー!それ持っていったら、オーディンにつけらんないジャンー!」
「アハハハハ!シギュン、目を離した隙に魔神のオレに出し抜かれちゃったか~♪」
「ロキってば魔神でも逃げ足速いから困るよー!アタシも逃げ足、速い自信あるけどさー!」
ロキ様本人とシギュン様の姿が見える。しかし先ほどの会議に出ていた時と違い、今の衣装は…。
「わぁっ!侍女さんと執事さんなんですね~!素敵です~!」
「あっ、ナビィ!スリュムと○○もいたんだ!ふっふーん、似合ってるでしょー!」
「シギュンにスカートはいたら?って進めたんだけど、恥ずかしいんだってさー!」
「執事の格好でも変身は変身だよん♪アタシ結構気に入ってるんだー!」
「あぁ驚いた……本当だ、シギュンよく似合っているよ。ロキはまた恥ずかしげもなくその格好をしているんだな」
「当然!だってオレ、なんでも着こなしちゃうし~♪」
何故魔神を追いかけていたのかをすっかり忘れ、和気藹々と話す北欧の神々。
その後ろからゆっくりと新たに近づいてくる神様達が傍目に見えた。
そちらに目をやると、中途半端にドレスに身を包んだオーディン様とトール様、そしてシギュン様のように執事服に身を包んだヘイムダル様……と、その脇を歩くヘイムダル様の愛馬グッルトップが姿を見せた。
「おぉスリュムにナビィ、それに○○までいるとはのう!ちょうどいい所に出会えたもんだわい!」
「ワシとしては最悪のタイミングだったと思うがな……」
「うわぁっ……化け物かと思ったよ。せめて髭は剃ったほうがいいんじゃないか」
「スリュムよ、またこのミョルニルを食らいたいのだな?」
「ひえっ!……また?」
合流した神々が雑談をする中、ヘイムダル様はからかおうとするロキ様を無視してシギュン様に話しかける。
「シギュン、結局見つかったわけ?盗まれたアクセサリー」
「あっ!……んーとね、ゴメン……取り逃がしちゃった」
「あー……まぁそんなことだろうとは思ったけどさ。まぁいいや」
「ちょっとーヘイムダルちゃんってばー!オレのことは無視?ねーねー無視なのー?」
「あーもううるっさいなぁ、大人しくしててよ」
「あぁん酷い!酷いわぁ!ねースリュムちゃん!」
「えっ!?なんでそこで俺に振るんだ」
魔神にアクセサリーを盗まれたというシギュン様の発言や、スリュム様がなくしてしまった金のアクセサリーのことが頭に浮かぶ。
そういえば、北欧地域では過去にもフリッグ様のアクセサリーが奪われる事件が起きていた。
「なんだか怪しい事件の予感がしますね……!」
ナビィのその発言に静かに頷く。
もしかしたら、北欧地域の他の神々も同じ事件に出くわしているかもしれない。
神々の力の宿る盗まれたアクセサリーを取り返し、オーディン様とトール様の変身を完璧な物とするため(?)北欧地域中を探し回ることとなった。
そしてこの時にはまだ、そこそこ大変な事件に発展するとは知る由もなかった。
北欧の神々による宴はもう始まっていた。
楽し気な音楽や声が響き、豪勢な料理の匂いが森に広がっている。
「お待たせしましたー!お次は大技、脱出トリックに挑戦いたします!」
グルヴェイグ様の演目、手品が行われパーティーは一層盛り上がりを増す。
エーギル様の仕込んだキイチゴの果実酒がふるまわれ、
イズン様たちが作った料理やお菓子が卓上に並ぶ。
――そんな華やか宴に怪しい影が一つ二つと近づく。
夜闇に隠れ、いくつもの魔神が静かに神々の宴を狙っているのだった。
それらの魔神は、日中に見かけたあの怪しい動きをしていた魔神……。
そう、神々からアクセサリーなどを盗み、身に着けていた魔神だ。
神々はそれらの魔神の行動理由は、神の力に自らの魔の力を隠し神々の懐に入ろうとしているのだろうと仮説を立てていた。
「なーにしてんの」
暗い影に近づく神。
執事姿の衣装に身を包んだヘイムダル様が、宴の周囲を見張っていたのだ。
元々番人として務めを果たしているヘイムダル様の目や耳をごまかすことは難しい。
それがたとえ、夜の深い闇のなかであったとしてもだ。
「悪いけど、オーディンの宴を邪魔するようなら容赦しないよ」
ヘイムダル様は魔神に向かってにやりと笑う。
「相手が魔神なら、ボクも思いっきりやれるからね」
愛馬グッルトップを連れたヘイムダル様は、どうにも機嫌がいいようだ。
その一角……女神の輪の中に混じって、ヘズ様やバルドル様、ナンナ様が何かに気づく。
「変だな……」
「ヘズ、何かあった?」
「……なんだか、森の奥でざわざわと音がするんだ。魔神の気配もわずかに感じる」
「魔神の?……大変だわ、急いで誰かに伝えましょう」
すぐさま、バルドル様らは近場に居たトール様に情報を伝える。
トール様は若返り、ウェディングドレスをまとっている。
会場の隅で座っているだけでもなかなかの存在感を放っていた。
「なに、魔神だと」
「そうみたいだ。もしかしたら、見張り番をしているヘイムダルが危ないかもしれない」
「えっ、何々~?ヘイムダルちゃんが危ないって~?」
「確かに見張り番するって言ってそのまんま戻ってきてないもんねー……」
耳ざといロキ様とシギュン様が聞きつける。トール様はバルドル様らとロキ様らの間に挟まるような形になった。
「ロキ、シギュン、君達も一緒に来てくれないか?ヘイムダルのところに合流しよう」
「アッハハハ!ねーシギュン、聞いた~?確かにヘイムダルちゃんのことは気になるけどさー、バルドルと一緒に行く義理はないよねー!」
「ロキ!主よ、まだそうやってひねたことを言っているのか。一大事かもしれんのだぞ」
「そーそー。見に行くなら早いとこ行こっ!それで、クッキーがなくならないうちに戻ろー!」
「ふーん?じゃー、オレらが勝手に行ってくればいいかー。いい子ちゃんは夜の森、歩くのヤでしょ?アハハ!」
それらの発言にロキ様は笑っているが、その笑顔がどこまで本気で、どこまで作りものなのか判断しがたい。
また、別の一角……マーニ様やソール様、ムンディルファリ様、ダグ様やノート様らが集まっている一角だ。
「ヴァルキリー様とジークフリート様、まだ来てないのです~」
「お忙しいのでしょうか?早く会いたいです!」
「道端で出会ったはずなのに、まだ来てないのはちょっと変だね」
「ヴァルキリーとジークフリートも、キイチゴやトリュフを準備してから行くと言っていたけど……それにしても遅いよ」
「……何かあったのかしら」
宴の中で過る不安な予感。
一層、森の闇が深くなったような気さえするのであった。
夜の帳が下りた北欧の港。
静けさの中に、激しく硬い物体がぶつかり合うような音が響く。
「ジークフリート!そっちだ、私が追い込む!」
「わかった。撃ち漏らしはしない……!」
ヴァルキリー様とジークフリート様が魔神と交戦していたのだった。
ジークフリート様の持つ大剣バルムンクが魔神を穿ち、致命傷を負った魔神は夜闇に溶け、姿を消してしまった。
「すごいな、ジークフリート……一撃で倒すなんてさすがだ」
「ヴァルキリーが狙いやすいように追い込んでくれたおかげだ。ありがとう」
「そ……そうだろうか。こちらこそありがとう」
戦闘のために小脇に置いた、キイチゴやトリュフ、特製のスイーツが入った籠を拾い上げるヴァルキリー様。
「宴には出遅れてしまったな……魔神に遭遇するたびに倒していたが、きりがないぞ」
「だからと言って魔神を野放しにしておくわけにもいかない。宴に顔を出したときに事情を話して謝ろう」
二人が森へ向かって歩こうとしたその時だった。
「うわぁーっ!俺の金細工がーっ!」
港から程近い、森の中で声を上げたのはスリュム様だ。
また、スリュム様から離れた位置で葉巻をふかしているスィアチ様の姿も見える。
スリュム様、スィアチ様の見る方向には、何体もの魔神が飛び交っている姿が見えた。
すかさずヴァルキリー様、ジークフリート様はスリュム様の傍に駆け寄る。
「あれは!こちらにもこんなに魔神が出現していたなんて」
「スリュム、大丈夫か。……怪我はないようだが」
「ああ……ありがとう。俺自身は特に何もない、が……」
青ざめた顔のスリュム様が指さす先にいる魔神の手には、夜闇の中のわずかな光を反射して光る何かが見えた。
「俺のアクセサリーが……少し目を離した隙に盗られてしまって」
「それなら取り返さなければな。魔神を放っておくわけにもいかない」
よく見れば、どの魔神もアクセサリーをいくつか持っているようだ。
金や銀、宝石などで魔神の手元や首元が彩られている。
「なんだぁ?お前らもあの宝が目当てか」
「いや、魔神を倒して取り返すという意味では目当てかもしれないが」
「ははっ、そうかよ。勝手にしな」
いまいち真意の読めないスィアチ様の発言。
悠々と葉巻をふかしながら様子を見たままだ。
ヴァルキリー様とジークフリート様はそれぞれの武器を手に持つ。
そしてそのまま魔神の群れに飛び込む!
「ヘイムダルちゃーん、一人でかっこつけちゃってさー!そこで何やってんの?」
「何だっていいでしょ。宴に戻りなよ」
「そうはいっても、この辺で戦ってたみたいジャン!大丈夫ー?」
静けさが戻った、宴から程近い森の中。
ヘイムダル様が近寄る魔神を一人で討伐した後に、ロキ様とシギュン様が合流したのだった。
雪や森の木々にその爪痕が残っている。
「ボクは大丈夫。グッルトップもいてくれたし、大した相手じゃなかったからね」
「けど、何か変だと思ったら……アクセサリーを持ってる魔神だったくせに、アクセサリーを落とさなかったんだよね」
ヘイムダル様の気づいた異変に、ヴァルキリー様らも気が付く。
何体もいた魔神たちを討伐したヴァルキリー様とジークフリート様は、魔神と戦った跡地を見つめながらつぶやく。
「魔神たちの持っていたアクセサリーが、砂のようになって消えてしまうなんて」
「……まさか。知っていたのか?」
ジークフリート様がスィアチ様を振り返る。スィアチ様はジークフリート様に向かってにやりと笑う。
「俺の金細工!」
危険が去った雪の中にスリュム様が飛び込む。
しかし……。
「ない」
「確かにこの辺に落ちていったところは見たんだ……なのに……」
「ねぇ、だろ?」
葉巻を片手にスィアチ様はくっくっと笑う。
「力を与えすぎると溢れちまうのさ。あの金細工はもうどこにもねぇ。諦めな」
「そ、そんな!?う、嘘だ……」
崩れ落ちるスリュム様。
その傍でヴァルキリー様とジークフリート様の二人は顔を合わせ、確認しあう。
「すぐさま宴に合流しよう。それでこの異変を伝えなければ」
「スリュムとスィアチも、ここに留まるのはやめたほうがいい」
「わ、わかった……」
素直に承諾するスリュム様。しかしスィアチ様は葉巻をくわえながら森の奥へと消えて行ってしまった。
「スィアチもスリュムも、宴に参加していたんじゃなかったのか?」
「俺は途中で抜けて、飛び切りのアクセサリーを持ってこようかと思っていたんだ」
「その……例の花嫁が居たからね。渡そうかと思って」
スリュム様の言う花嫁は若返ったウェディングドレス姿のトール様の事だろう。
スリュム様はあの花嫁がトール様とは全く気付かず、花嫁として迎えたいと豪語していた。
一行はため息をつきながら、フィーバーしている宴の会場へ向かった。
ヴァルキリー様とジークフリート様、そしてスリュム様が宴の会場に到着する。
ほぼ同時刻にロキ様、シギュン様、ヘイムダル様も宴へ戻ってきた。
どちらのグループもそれぞれあった出来事を話す。
北欧の神々が集う宴のそのすぐ傍で起きた魔神との戦い。
雪深い森の中で起きた数々の異変そのものは小さい出来事に過ぎない。
しかし、それがいくつも積み重なることで大きな事件に発展しかねない。
この異変は今に始まったことではない。
そう皆で深く考えていると、ドレスを着た若い姿のオーディン様が声をかけてくださった。
「パーティーだと言うのにどうした!そんな所で一人で座っていてはもったいないぞ?さぁレッツダンスだ!」
不安な思いが顔に出てしまっていたのだろうか。
若返ったオーディン様に言われ、思わず驚いた顔をする面々。
そしてオーディン様は明るい笑顔で答えた。
「魔神が現れようと関係ない。ここは俺の土地で、俺が守っている!不安なことは何一つないだろう?」
「宴のためにと用意されたグレートな料理や酒、会場……どれもベリーグッドだ!なのに台無しになってはもったいないぞ、ハハハ!」
オーディン様のホットな一声で、魔神ごと不安や雪が吹き飛ばされたような気さえした。
新しく生まれた不安や疑問はあれど、まだ宴は終わっていないのだ。
短くとも日が昇るまで、○○は踊り続けることを覚悟したのだった。