再来!天地修復-溢れ逝く時空- ストーリー
※○○にはユーザー名が入ります
新たなエリアへの挑戦、モンスターとの戦い、魔神戦……
度重なる冒険に、○○は多少なりとも疲れを感じていた。
「少し、お休みを取られた方がいいかもしれませんね〜」
ナビィの声かけに軽く頷く。
ちょうど中国山脈に差し掛かったところで小川を見つけ、
そこで軽く休憩をとろうという話題になっていた。
「あら、お休みですか?」
声のするほうへ振り向くと、羽衣を揺らしながらジョカがゆったりと近づいてくる。
「わぁ、ジョカ様!こんにちは〜!」
「うふふ、こんにちは。お会いできてうれしいわ」
ジョカはナビィと軽く挨拶を交わし、ふわりと地面に降り立つ。
「お休みになるなら、ちょうどいい場所がありますよ」
「え、本当ですか!?」
食いつくナビィを見て、そっと口元を隠しながらジョカが微笑む。
「以前、天地が崩壊した事件があったこと、おぼえていますか?」
「その修復した場所、今では中華桃源郷と呼んでいますが……」
「羽を伸ばすにはちょうどいい場所だと思います」
中華桃源郷とは、中国地域の一角にある場所で、
花に満ち、水は澄み、天は近く、まさに桃源郷の名に相応しい名所だ。
以前、ジョカとバンコが崩壊した大地を修復した際に生まれた所のため、
比較的新しい場所ではあるが、ジョカいわく中国地域の神達が訪れる憩いの場となっているとのこと。
「ここからそう遠くないので、私でよろしければ案内しますよ」
「本当ですか?わぁ、とっても気になります〜!」
ナビィもジョカも、楽しそうに声を弾ませている。心は既に中華桃源郷にあるようだ。
「バンコにも伝えてきましょうか。きっとお饅頭を用意してくれると思うわ」
「素敵ですね〜♪ではせっかくですし、早速行ってみましょうか!」
ナビィに手を引かれ、中華桃源郷へと出発することとなった○○。
そのときはまだ誰も、その後の事態を察することはできなかった。
地が割れ、その隙間から火柱が噴き出すかつての中華桃源郷。
今の荒れ果てた景観からはこの場所がもともと憩いの場であったことなど想像できない。
その荒れた大地で○○と神の一行は、背に白い翼の生えた人物を追っていた。
「見かけによらず、逃げ足が速いんだね」
霊亀の連れる亀に揺られながら、太公望がつぶやく。
「普通の移動手段とは違うのでしょうか……足跡も途切れ途切れでしたし」
「ふむ、妙な術でも使っておるのかのう」
傍にいたジョカ、霊亀もまたその人物について考察していた。
神に匹敵する力を持ち、こぶしを叩きつけただけで広大な中国地域の大地を割る屈強な人物。
「そういや、あの白い翼に気を取られていたが……体中つぎはぎだらけだったぜ」
「ああ、確かに。右肩の辺りに変な仮面のような……何かをつけていたような」
ナタクとショウキは冷静にその人物の特徴を捉えていた。
あげられる特徴から、過去にそれと似た特徴の存在がいることをナビィは思い出す。
「つぎはぎ……変な仮面……?それってもしかして、クレプシード家の一員なのでは……?!」
「クレプシード家……って確か、色んな地域で悪さをしているという輩か」
スヴェイ、ヘレグ、ナイトシアに続く新たな敵の出現に、ナビィの面持ちが不安の色に染まる。
「ちょっと待て、あそこに人影が見える。追いかけてる奴さんかもしれねぇ」
東王父が指差した方を見ると、確かに何者かの影が岩陰に見える。
噴き上がる炎や揺らめく陽炎で判然としないものの、
大きい体躯の人物がしゃがみこみ、手の中の何かを確認しているさまがうかがえた。
「あれが地面を割っているという人物でしょうか……早くやめさせなければいけませんね」
「ああ、もう少し近づこう。また逃げられても困る」
カンテイとフッキが距離をはかっているが、まだ追い詰めるには距離があるらしい。
「そうですね……回り込んで挟み撃ちにしてみたりすれば確実でしょうか」
「ん。確かにそれなら捕まえられそうだ」
すぐさま、作戦を練り始める一行。
だが、バンコは何かに集中するようにひとり一団から離れ、静かに目をつむる。
「バンコ様、どうかしたのでしょうか?」
心配そうにバンコの方に顔を向けるナビィ。
しかしバンコはその声に気づいている様子はない。
「……ナビィよ、少し辺りを見まわした方が良さそうだねぇ」
「え?えっと……?」
「まぁ、バンコを見ておれ」
そう霊亀に促され、改めてバンコの方を向くナビィ。
すると、バンコは例の人物がいる方向とは逆側……一行の背後側に体を向ける。
「そこにいるな。もう姿を隠す必要はない」
バンコが声をかける方向へ目線を走らせてもそちらには誰もいない。
だが、バンコが片手に持つ神具の巻物で地面を小突くと、
バンコの目の前に広がる空間に、まるでガラスに入るようなひびが入った。
そのひびはあっという間に広がって、そのまま黒く大きな空間の裂け目ができあがる。
「こ、これは……!」
これで何度目になるだろうか。この空間の裂け目は間違いなく
今まで様々な事件を引き起こしたものと同等のものだろうということがナビィにはわかる。
そして、その黒い闇が歪むように形を変え、裂け目の中から黒いフードの男が姿を見せる。
『ようカミサマ。また会ったな』
ヘレグ=クレプシード。前回の一件で世界から色を奪い力をつけた彼は
未だ全身が鮮やかに、しかしまだらに染まっていた。
「またあなたたちが原因なのですね!どうしてこんなことをするんですか〜!」
「全くだ!オレたちの中国地域をよくも崩してくれたな。覚悟はできているか?」
『ハハ、相変わらずおっかないねぇ。もう少し気楽にやろうぜ』
「ふざけるのも大概にしてもらおうか!」
バンコがヘレグを睨む。しかし相手が悪かったらしく、ヘレグにその睨みは効いていないようだった。
『なーに、そうカッカすんなって。地面からだけじゃなくて、顔からも火ィ出せんのか?ヒューッ、こわいこわい』
「あの地面を割る人物は何者なのか教えてもらおうか」
『ありゃあコメのおっさんだな』
『こめとん!』
にやりと笑うヘレグの後ろから、スヴェイが顔を出す。
「コメトン……それがあの人物の名か」
『まぁな。で、おっさんがどうかしたのか?』
「どうもこうもない。あの人物が地面を割りこのような事態になった。貴方達は一体何が目的なんだ!」
『そう言われても……なぁ、スヴェイ』
『ワカンナーイ!キャハハ!』
バンコの質問をかわし、へらへらと嫌な笑みを浮かべるヘレグと無邪気にはしゃぐスヴェイ。
「話にならないな。だが貴方達がこの災厄を引き起こしていることはわかった。討伐させてもらう」
『おっと、やっぱりそういう話になるか。わかりやすくていいねぇあんた』
「バンコ、一体どうしたの……あら、この方たちは……!?」
ようやくヘレグとスヴェイに気がついたジョカが少々離れた位置から声をかける。
「ジョカ、そっちにいるやつはコメトンというらしい。こっちはオレが引き受けるから貴方達はそのコメトンとやらを頼む」
「え?ですが、バンコは……」
「オレのことはいい、犯人を逃がすなよ」
「……はい、わかりました。……バンコ、ではそちらは任せましたよ」
バンコに言われ踵を返すジョカ。
「○○、ナビィ、貴方もだ。あちらに霊亀と神農がいる。二人と落ち合わせて行動を共にして欲しい。後は霊亀に聞いてくれ」
「えっ!?は、はい!わかりました〜!」
バンコに促され、ナビィと○○はその場を立ち去り、霊亀の方へ向かった。
その様子を眺めていたヘレグは不適な笑みを浮かべる。
『おっとそうだ。あんたは創造神だったな?あぶねぇあぶねぇ、準備しておかねぇとな』
そうつぶやきながらヘレグが自身の持つ得物を振りかざすと、色鮮やかな魔法陣が展開される。
その光景を見て、バンコは眉をひそめた。
「まぁ待てよ、バンコ」
「キミじゃ、あの魔法陣どうにもできないでしょ。めんどくさいからちょっと下がってて」
バンコが声のする方を向くと、バンコの脇を通り太公望と東王父がヘレグとスヴェイの前に立つ。
「はは、やる気満々だな太公望。普段からそれなら悪くねぇんだがなぁ」
「え?あの魔法陣をどうにかするのは東王父でしょ」
「ん?俺は何も聞かなかったぞ」
「貴方達は何をしに来たんだ、全く……」
だらだらと仕事の押し付け合いをしつつも、
後ろには引き下がらない太公望と東王父の背を見て、
バンコはあきれつつも軽く口元を緩めた。
『ははぁ、コメのおっさんを邪魔するつもりなんだな?』
「これ以上中国地域を焦土にさせるわけにはいかないからな」
『仕方ねぇなぁ』
ヘレグは空間の裂け目に顔を向ける。
その後口元に手をあて、わざとらしく誰かを呼ぶようなポーズを取り……
『ナイト姉さん、そっち頼むぜ。こっちは手一杯だからな』
その一言の直後、作戦を練っていた一団のすぐ傍の空間から巨大な剣が突き出す。
そして、その剣を中心に大きな亀裂が走り、あっという間にもう一つの空間の裂け目が生み出された。
空間の裂け目を見てあっけに取られている一団をよそに、その裂け目の中から大剣を掲げた人物が現れる。
『申し遅れたな。私はナイトシア=クレプシード。悪いが、これ以上先には進ませない』
ナイトシアは見るからに重量のある大剣を軽々と扱い、一団の行く手をふさぐ。
しかし、フッキとカンテイは既にこの一団から離脱しており、この場にはジョカとナタク、ショウキしか残っていなかった。
「すみませんが、その道を開けてもらえませんか?私たちも後には引けません」
「なるほどなぁ……こいつがその黒幕の仲間ってことか。面白そうじゃねぇか」
ジョカやナタク、ショウキも後に引くどころかナイトシアの前に出る。
「先手を打っていて正解でしたね」
「そうだな……ここでもう一体、でかいのが来るとは思ってなかった」
ジョカの言う先手とは、神農、霊亀、そして○○とナビィの一団のことだ。
この四人はもともとカンテイが組んでいた挟み撃ち作戦のルートに沿って移動しており、
カンテイやフッキと作戦を予定通り実行するため、この一団から離脱していたのだった。
「コメトンは一足先に彼らが何とかしてくれるはずです。私たちはここで彼女を討伐して、彼らの後を追いましょう」
「わかった。早く片付けなければな……!」
「ああ!わかってるさ」
一方、神農と霊亀、○○、ナビィの一行だが——。
「るんるるん♪亀さん♪亀さん♪甲羅が硬いのね♪」
「機嫌が良くて何よりだねぇ、神農」
霊亀の連れる亀の上に乗り、ゆっくりと移動していた。
「き、気づかれないまま進めてますが、ちょっと心配です……!」
「えへへ〜亀さんってゆっくり歩くから静かなんだね〜!」
「そうさなぁ。……おっと、あそこに例の人物がおるぞ」
「わーっ、どこどこ?どこにいるの〜っ?」
「ほれ、そこに」
霊亀の指差す先には間違いなくコメトンがうずくまって何か作業をしている姿が見える。
「あれって何をしてるのか君達には分かるかねぇ」
「えっ?しゃがんでいるのはわかるのですが……」
「ん〜?……あっ!わかったわかったぁ!」
「神農様、分かるのですか?!」
「あれね〜、種まきだよ〜!ほら、種ちゃん持ってるでしょ!」
神農がコメトンの動作を真似しつつ訴え、ナビィはその様子を見て目を丸くする。
「ふむ……種を持っているかどうかはよくわからんが、そういう動きに見えてくるねぇ」
「確かに!神農様すごいです〜!」
「絶対そうだよねぇ〜!僕もねぇ、種ちゃんを植えるときはああやってかがんで、地面に穴を掘って埋めるんだもん」
「つまり、あの人物は中国地域のあちこちに種を蒔いていたということか」
「えっ!?そうなの!?わぁ〜!なんの種を植えるんだろ!どんな子が育つのかな?!気になるぅ〜!」
「これこれ、騒ぐと落っこちるぞ」
「あっ!危ない危ないっ!アハハ!」
とぼけた会話をしつつ、コメトンと一歩ずつ距離を縮めていく。
だんだんと陽炎で揺らいでいたコメトンの姿が鮮明に見えてきた。
「だいぶ近づいてきたねぇ。神農よ、あの人物を倒したらこの地を修復したくさんの植物を植えるとしよう」
「ふえ?倒すの〜?」
「あの種が本当に植物かどうかも分からぬしねぇ……それにあの人物は邪魔をするものには容赦をしなさそうでな」
「わかった〜!るんるるーん♪肥料になーあれ!」
神農の楽しそうな声は噴き出す炎にかき消されていく。
コメトンは未だ、熱心に作業を続けているようだ。
「ようし、いいぞ。そろそろ出番かねぇ」
「わぁ〜い!種ちゃんみーせて!」
「あっ、神農様〜!飛び出したら危ないです〜!」
亀の背から飛び降り、神農は神具の硬鞭片手に真っ直ぐコメトンに向かっていく。
「では儂らも行くとしようかねぇ、それっ」
走り寄る神農にはさすがに気づいたらしく、コメトンはゆっくりと立ち上がり神農を見据える。
『うぬら、何度わしらの邪魔立てをする気か。覚悟はできておるのだな』
「わぁ!おっきーい!ねぇねぇっ、何してたの?何してたの〜?」
『うぬらには関係のないことよ』
「あぶない〜!アハハ!また地面が割れちゃう〜!」
その後すぐに大きな地震が起きる。間違いなくコメトンが地面を割った衝撃によるものだ。
「はじまったみたいだな」
「らしいね。こっちもそろそろはじめないとね……ふわぁ、眠くなってきちゃったよ」
『ハハ、さすがカミサマは余裕だねぇ』
びりびりと地面が震える振動に緊張感を覚えるバンコ。
対するヘレグはバンコたちを眺めつつ、静かに戦いの準備を整えていく。
『そういや、何が目的か……なーんて聞かれてたっけな?』
『オレ達はただ、ガーデニングするだけの場所が欲しかっただけ。ちょっとくらいいいだろ?』
『あんたらは何でも持ってるじゃねぇか。ものを作れる手も、地面を踏みしめる足も、呼ばれる名もな』
音も立てず砂埃が巻き上がる。大地を修復するための戦いがはじまった。